第213話

祝杯③
2,346
2019/05/14 01:35


 俺はちらりとまた見てしまった。首に手を回して、杏奈先輩にキスをするユウさん。そして、目を閉じて、やさしく受け止める杏奈先輩。
 幸せそうな……杏奈先輩ーー。
 ズキン……ってあれ? なんで俺……ズキンってしたんだ?
 杏奈先輩は、職場の先輩で、ただの知り合いで、ユウさんの彼女で、それなのに、なんでこんなに……。
「杏奈は美人だからな」
「うぁぁぁぁあぁぁ」
 腰を抜かした。真後ろに、美咲さんがいたからだ。
「どうした、なぜそんなに驚いている」
「だ、だ、だって、い、いるってき、気づかなかったから……そのっ」
「誤魔化さなくていい。……杏奈はいい女だ。けど、あいつはユウのだから、やめとけよ」
「は、な、んで、俺が杏奈先輩を、」
「直感だ。図星だろ?」
 ……なんでわかったんだ!? ユウさんも勘が鋭いけど、美咲さんもやべぇよ。
「……ユウさんには、秘密にしてください」
「無論だ。じゃないと、俺も殺される」
 確かにそうだな。この想いは、封印しよう……。
「美咲さん。今日飲み付き合ってください」
「……いいけど、飲み過ぎるなよ?」
「いいじゃないっすか。ユウさんと杏奈先輩が結婚するんすよ? 今日くらい、俺たちだけで祝いましょうよ」
 そう言うと、美咲さんがククッと肩で笑った。
「……浩太。おまえは、いいやつだ」
「そんなことないっす」
 失恋した、今日くらいは、飲み過ぎてもいいよな。
 とうの本人たち抜きの祝杯。美咲さんは、俺が呑み潰れるまで付き合ってくれた。美咲さんもユウさんも杏奈先輩も、みんないい人だ。俺は、恵まれている。
 あとは、可愛い彼女ができれば、文句ないんだけど。はぁ、……俺も恋してぇなぁ。


プリ小説オーディオドラマ