第148話

非日常⑥
2,692
2019/04/29 13:36


 帰りぎわ岡田さんに呼び止められた。
「送るよ。最近車、買ったんだ」
「え、でも……」
「遠慮しないで」
 優しく語りかけるような声。私は、岡田さんの言葉に甘えることにした。
 駐車場で私は唖然とした。
 黒い四輪駆動のメルセデス・ベンツ……? は?
「え、この車……岡田さんのですか?」
「そうだけど、なに?」
「えぇ」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんていうか……」
「うん」
「岡田さんってお金持ちなんだ」
「さらりと言うね」
「すみません」
「いや、いいけど。あと、お金持ちじゃないからね」
「へぇ…………またまたぁ」
「どっちなの?」
 私たちは、車の中でいろんな話をした。仕事のこと、趣味のこと、岡田さんは私の話を聞いてくれた。楽しかった。私は、コーヒーが好きだと言った。すると岡田さんが提案した。
「あ、ねぇ。今度よかったら家来ない? エスプレッソマシンあるから、淹れてあげる」
「ほんとですか? 嬉しいです」
 喜んでその提案に乗った。エスプレッソマシンで淹れたコーヒーが美味しいことを、私は知っていた。どこでその味を知ったのか忘れた。けれど、とにかく知っていた。岡田さんの家へお邪魔するのは初めてだ。ちょっと楽しみだった。


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