帰りぎわ岡田さんに呼び止められた。
「送るよ。最近車、買ったんだ」
「え、でも……」
「遠慮しないで」
優しく語りかけるような声。私は、岡田さんの言葉に甘えることにした。
駐車場で私は唖然とした。
黒い四輪駆動のメルセデス・ベンツ……? は?
「え、この車……岡田さんのですか?」
「そうだけど、なに?」
「えぇ」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんていうか……」
「うん」
「岡田さんってお金持ちなんだ」
「さらりと言うね」
「すみません」
「いや、いいけど。あと、お金持ちじゃないからね」
「へぇ…………またまたぁ」
「どっちなの?」
私たちは、車の中でいろんな話をした。仕事のこと、趣味のこと、岡田さんは私の話を聞いてくれた。楽しかった。私は、コーヒーが好きだと言った。すると岡田さんが提案した。
「あ、ねぇ。今度よかったら家来ない? エスプレッソマシンあるから、淹れてあげる」
「ほんとですか? 嬉しいです」
喜んでその提案に乗った。エスプレッソマシンで淹れたコーヒーが美味しいことを、私は知っていた。どこでその味を知ったのか忘れた。けれど、とにかく知っていた。岡田さんの家へお邪魔するのは初めてだ。ちょっと楽しみだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。