第168話

隠し事⑥
2,569
2019/05/05 07:26


 というわけで。
 つまり、なんというか、……言うしかなかった。
 お見合いの話をした。ユウさんはなにも言わず帰った。立ち尽くしていると、美咲さんから声をかけられた。
「あいつ、なにかあったのか?」
「いや……じつは」
 俺は、事情を説明した。美咲さんは、なにも言わなかった。ただ、視線をおとし、なにか考えていた。
 いつもはユウさんと喧嘩ばかりしている美咲さん。杏奈先輩がユウさんの記憶を失ったとき、一番悲しんだのはほかでもない。美咲さんだった。
 すこしの沈黙。
「浩太」
 美咲さんが口をひらいた。
「はい」
 俺は、ゆっくりとそのほうを見た。
 言葉にできないような表情の美咲さん。悲しんでいるような、怒っているような、そのどちらでもないような顔をしている。もしかしたら、俺も同じ顔をしているのかもしれない。
 美咲さんが呟くように言った。
「俺たちは……なにもできねぇ。けど……やっぱり……あまりにもユウが可哀想だ」
「……そうっすね」
 ほんとうにそう思った。ここ最近、杏奈先輩とユウさんは頻繁に連絡を取り合っていた。
 二週間前、ジムに遊びにきたことがきっかけで、ふたりの距離が縮まったようだった。
 もしかしたら、このままうまくいくんじゃないか。そんな矢先のことだった。
 なのに、なんでこんなうまくいかねぇんだよ。俺……幸せそうなふたりの顔眺めるのが好きだったのにな……。








毎日更新できずすみません。

プリ小説オーディオドラマ