星がポツポツと出てきた。空は藍色に変わりつつある。遠くに見える山の上部を眺めた。そこだけは、ピンク色と水色をマーブリングしたような淡い空がのこっていた。けれどそれも、まばたきするごとに、藍色へ移行していく。
しばらく息をしたあと、視線を近くへ戻した。こっちへ向かってくる影。その影が、私を見つけた。一度立ち止まり、そしてかけてくる。
「杏奈先輩っ」
そう言って、私のもとへやってきた。そんな彼に、笑いかけた。
「こんばんは。浩太くん」
知ろうと思った。私のなくなった記憶すべて。知るためには、浩太くんがいちばんいいと思った。
うす暗い道を、並んで歩いた。浩太くんが、ニコニコしながら言った。
「どうしたんすか? あんなところで待ち伏せして」
「あぁ、うん。ちょっとね」
「なんすか!? 今日の杏奈先輩、ちょっと大人っぽいっていうか……こわいっすよ?」
「…………」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。