第84話

想起⑦
4,820
2019/04/11 12:54


 いつものようにキスから始まり、何度もユウとつながった。ユウが満足そうに眺めて耳元で囁く。
 愛してるーー。
 そう言って私を何度も抱いた。気持ちの昂ぶった時のユウは、なかなか寝かせてくれない。
 狂おしほどの愛を一晩中受け止め続けた。
 それはとても甘くて濃厚な夜だった。

 翌日、もちろん寝坊した。
「ユウっ、遅刻しちゃううっ!!!」
「ごめんね。タクシー代払うから」
「えええ、タクシーなんてこっからだと高すぎるっ」
「いいよ。僕が寝かさなかったし」
 ユウは、ほんとうにタクシーを呼んでくれた。
 なんだかんだ優しいユウ。
 ユウがいればそれでいいの。それで……ほんとによかったの。でも、現実は私たちに冷たいね。
 私はただいっしょにいたいだけなのにーー。
 ユウのそばで笑っていたいだけなのにーー。
 どうしてこうも引き離そうとするのかな。
 ニコニコと笑いかけるユウ。そんな彼はもういない。

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