「すごいなぁ。私なんて、いつもぼうっとしてるから、……頭も良くないし」
「僕だって、そんなに頭良くないよ」
「きっと良いのでしょう?」
「なに言ってるのかな?」
ほんと、私……なに言ってるんだろ。
私はごまかすために、べつの話題を切りだした。
「岡田さんは、彼女とかいないんですか」
一瞬、彼の顔に影がかかった気がした。ギクリとした。しばらくして、岡田さんは呟くように言った。
「……今はいない、かな」
まずいこと言ってしまったと後悔した。
「ご、ごめんなさい。へんなこと訊いて」
けれど、岡田さんはすぐに笑ってくれた。
「ううん。ぜんぜん気にしてないからだいじょうぶだよ。あ、コーヒー、おかわりいる?」
「はい」
「淹れてくるよ」
岡田さんが立ち上がる。
ーートイレ行っとこうかな。
私も、腰をあげた。
「岡田さん、お手洗い借りてもいいですか?」
「うん。つきあたりを右にいって、それから」
「あぁ、だいじょうぶです。知ってますから」
「え?」
岡田さんの動きが止まった。ハッとして口に手をあてた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!