目覚めてすぐの杏奈先輩は、人が変わったようだった。突然現れるパニック症状。頭を抱えて、叫び散らかす。
周りにあるものを、ひっくり返してベッドの上でのたうち回った。俺は必死で、先輩を落ち着かせようとした。
「痛い……っ、うぅ、頭が痛い……ッ、誰かが……私の頭を……ァ、……振り返って……アァ」
「杏奈先輩っ! 落ち着いてっ!!」
「そしたら、……だれかが、……だれ、……かが……ねぇ、私、……しら、なぃ……こ、わぃ……の…………ァァァ」
「先輩ッッ!!」
「ね、ぇ……浩太くん……ユウって……だれ?」
看護師と先生がやってきて羽交い締めにし、鎮静剤を投与すると眠りにつく。こわい、と杏奈先輩は泣いていた。あの病室で、泣いていた。杏奈先輩が壊れるところは、もう見たくない。
ーー言えない。杏奈先輩には、ユウさんという恋人がいるなんて……。
「ッ……」
俺は、グッと手を握りしめる。なにも言えないでいると、杏奈先輩がクスリと笑った。
「浩太くん、なんでそんなに心配そうな顔してるの? もしかして、私のこと好きなの?」
「そうじゃなくて!」
「即答だね」
「ぁ、いや……違うんです……そうじゃ……なくて」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。