第165話

隠し事③
2,570
2019/05/05 07:24


 目覚めてすぐの杏奈先輩は、人が変わったようだった。突然現れるパニック症状。頭を抱えて、叫び散らかす。
 周りにあるものを、ひっくり返してベッドの上でのたうち回った。俺は必死で、先輩を落ち着かせようとした。
「痛い……っ、うぅ、頭が痛い……ッ、誰かが……私の頭を……ァ、……振り返って……アァ」
「杏奈先輩っ! 落ち着いてっ!!」
「そしたら、……だれかが、……だれ、……かが……ねぇ、私、……しら、なぃ……こ、わぃ……の…………ァァァ」
「先輩ッッ!!」
「ね、ぇ……浩太くん……ユウって……だれ?」
 看護師と先生がやってきて羽交い締めにし、鎮静剤を投与すると眠りにつく。こわい、と杏奈先輩は泣いていた。あの病室で、泣いていた。杏奈先輩が壊れるところは、もう見たくない。

 ーー言えない。杏奈先輩には、ユウさんという恋人がいるなんて……。
「ッ……」
 俺は、グッと手を握りしめる。なにも言えないでいると、杏奈先輩がクスリと笑った。
「浩太くん、なんでそんなに心配そうな顔してるの? もしかして、私のこと好きなの?」
「そうじゃなくて!」
「即答だね」
「ぁ、いや……違うんです……そうじゃ……なくて」


プリ小説オーディオドラマ