第106話

初恋③
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2019/04/16 09:10




 もうすぐ警察がやってくるだろう。そしたら、全てを受け入れる。包み隠さず何もかも説明するつもりだ。
 私がどれほどまでに、岡田ユウという人物を愛していたかを。そして、どれほどまでに三野村杏奈へ嫉妬していたかを。
 警察は辛抱強く私の話を聞いてくれるだろう。彼らはとても優しいから、きっと一字一句漏らさず聞いてくれる。それが、すこしだけ嬉しい。
 ーー貴方との出会いは今でも忘れない。
 十五年前。孤児院から引き取られて新しい環境に馴染めないでいた私。
 いつものように父親から暴行されたあと、公園のベンチで、気だるい身体を横たえていた。そこに貴方がやってきた。
 向かい側のベンチに座って、じっと歩道のほうを見つめる貴方。目を奪われた。こんな格好いい男の子を私は知らない。
 私の心を貴方は鷲掴みにした。食い入るように貴方を見つめた。 貴方は誰かを待っているようだった。
 だから、私もこっそり待ってみた。誰と待ち合わせしているのだろう。気になった。けれど、誰も来なかった。
 ひとりの女の子が通り過ぎていったあと、しばらくして貴方は立ち上がった。そして、まるで目的を達成したかのように颯爽と行ってしまった。
 そのあと、もう少し待ってみたけれど、結局誰も来なかった。歩道のほうを見ても気になるものはなかった。一体貴方は、だれを待っていたのだろう。
 あぁ、そう言えば、公園で見かけた女の子。あの子の目の下には、ホクロがあった。三野村杏奈とおなじなのは、きっと偶然だろう。
 けれど、いまさら、どうでもいい。詮索したところで、なにも変わらない。
 家の外がざわついている。警察が到着したらしい。私は、肩を落とすとふたたび頭を床に預けた。
 ーーさよなら。ユウ。

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