もうすぐ警察がやってくるだろう。そしたら、全てを受け入れる。包み隠さず何もかも説明するつもりだ。
私がどれほどまでに、岡田ユウという人物を愛していたかを。そして、どれほどまでに三野村杏奈へ嫉妬していたかを。
警察は辛抱強く私の話を聞いてくれるだろう。彼らはとても優しいから、きっと一字一句漏らさず聞いてくれる。それが、すこしだけ嬉しい。
ーー貴方との出会いは今でも忘れない。
十五年前。孤児院から引き取られて新しい環境に馴染めないでいた私。
いつものように父親から暴行されたあと、公園のベンチで、気だるい身体を横たえていた。そこに貴方がやってきた。
向かい側のベンチに座って、じっと歩道のほうを見つめる貴方。目を奪われた。こんな格好いい男の子を私は知らない。
私の心を貴方は鷲掴みにした。食い入るように貴方を見つめた。 貴方は誰かを待っているようだった。
だから、私もこっそり待ってみた。誰と待ち合わせしているのだろう。気になった。けれど、誰も来なかった。
ひとりの女の子が通り過ぎていったあと、しばらくして貴方は立ち上がった。そして、まるで目的を達成したかのように颯爽と行ってしまった。
そのあと、もう少し待ってみたけれど、結局誰も来なかった。歩道のほうを見ても気になるものはなかった。一体貴方は、だれを待っていたのだろう。
あぁ、そう言えば、公園で見かけた女の子。あの子の目の下には、ホクロがあった。三野村杏奈とおなじなのは、きっと偶然だろう。
けれど、いまさら、どうでもいい。詮索したところで、なにも変わらない。
家の外がざわついている。警察が到着したらしい。私は、肩を落とすとふたたび頭を床に預けた。
ーーさよなら。ユウ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。