杏奈が家へ来た。来てくれないかもしれない、と思っていたので、インターホンの音を聞いたとき、胸を撫でおろした。
先週、
『よかったら、家にコーヒーを飲みにこない?』
勇気を出して言って、ほんとうによかった。
「おじゃまします」
そう言って、杏奈は僕の家に足を踏み入れた。彼女が、僕に家に来たのは事故以来。つまり三ヶ月半ぶりだった。彼女が僕の家にいる。それが、たまらなく嬉しかった。
僕は、キッチンに立った。久しぶりに、ふたりぶんのコーヒーを淹れた。おいしい、と言ってくれるだろうか。
期待とすこしの不安を抱きながら、彼女のもとへ行った。杏奈は、ソファーへうつ伏せになっていた。一体どうしたことだろう。しかも、なにやら独り言を言っている。
「ぁ、……いぃ、……すごく………いぃ」
なにがいいのか、さっぱりわからない。
「杏奈ちゃん?」
呼びかけてみた。彼女は僕を見て、気まずそうに起き上がった。
「ごめんなさい。つい」
「ついって……眠かったの?」
「いえ、そう言うわけじゃないんですけど。なんとなく横になりたくなってしまって。ごめんなさい」
「あはは、なにそれ」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。