*黒尾side
中学校を卒業した春、俺は嫌がる研磨を連れて公園に行った
そこは小さい時から研磨とバレーを練習した場所だった
そこで出会ったのがあなただった
家が近くだったこともあり、3人でバレーをするようになった
そんなある日の事だった
黒尾「なんであなたはそんなにバレー上手いのに部活入んないんだ?」
あなたはスパイクもレシーブも上手かった
しかし、あなたは部活に入っていなかった
その実力ならエースだって狙えるのに……
俺はそう思っていた
あなた「んー、トラウマかな」
へらっと笑ってそう言った
あなた「ちょっと私の話してもいい?」
そう言ってあなたは話し始めた
あなた「私、お兄ちゃんがいるの」
孤爪「…見た事ない」
あなた「うん、両親離婚してるから」
あなたはボールをつきながら言った
あなた「若くん…お兄ちゃんはさ、中学で私立に入って男バレでめちゃくちゃ活躍してさ、県内でも有名だったの」
すごいでしょ、とあなたは誇らしげに言った
あなた「お兄ちゃんに憧れて、私も中学からバレー始めたんだけど、私には才能がなかった。だから必死に練習して1年でレギュラーになったんだ」
1年でレギュラーって…相当練習したんだな…
あなた「それで、全国大会も出て、私は雑誌に最強兄妹って紹介された。それが気に食わなかったんだろうね、みんなから疎まれるようになった」
あなたは笑いながら話していたが、俺は笑えなかった
あなた「スパイクが決まった時は、さすが最強兄妹って言われて、ブロックに引っかかった時はお兄さんはすごいのに、って言われた」
あなたはついていたボールを持って話を続けた
あなた「それが嫌になって、バレーは好きなのにやりたくなくなった。そんな時、両親が離婚することが決まって、私はお父さんについて行くことにした」
俺も研磨も黙って話を聞いていた
あなた「お父さんは海外に行くから、私もついて行こうとしたんだけど、お父さんのお姉ちゃん…つまりおばさんが、うちに来ない?って言ってくれて、今はおばさんと暮らしてる」
あなたが一緒に住んでいるのはてっきり母親だと思っていた
俺はあなたにこんな過去があるなんて思いもしなかった
あなた「バレーは好き、楽しいもん。だけど、試合をするって考えるとまだ怖い。だから部活には入らないんだ」
あなたは笑っていた
話している間も、話し終わってもずっと…
その笑顔が作り物だということを、この時の俺は知らなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!