第21話

番外編 細石は過ちを振り返る
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2022/03/28 12:47
 さざれ──漢字で「細石」と書く。
 ジャリジャリ、ジャリジャリ、誰かにとっては邪魔なもので、誰かにとっては痛いもの。
 その名前はまさにわたしにぴったりだと思った。わたしは男子高生を一度殺めたことで、クラスに──否、学校に不必要な存在となってしまった。邪魔者だ。そして、わたしは少女を二人も痛めつけた。殺した。
 病室の窓から覗く、街の四角い建造物。豆粒ぐらいに小さな、人、人、人。色とりどりの衣服を身に纏い、誰かは誰かと会話し、誰かは長方形の黒い機械を片手に待ち人を待っている。
 ありふれた日常から、まるで隔離されたかのような光景である。それが何だかおもしろくて、思わず笑みをこぼす。
 なんだか馬鹿みたいだなぁ、わたし。
 一人で勝手に暴走しちゃったんだからね。そのせいでわたしのことを愛してくれていた人をこの手で確かに殺めちゃった。勝手すぎる。
 わたしは人間だ。愛をまだよく理解できていない、暗い過去を持つ未熟な中学生だ。
 わたしの中に眠っていたもの──例えば悪魔が、わたしの行動を操っていたとしたら? それが暴走して、『恋』程度の気持ちを愛だと認識させて、どんどん過激にしていって、殺人までしてしまったということだったら?
 なかなかユニークな発想だな、と我ながら思う。
 窓の外を眺めるのをやめ、病室の純白すぎるベッドを視界に移す。
 わたしは過去の事件でヴィランの心が目覚めた──あるいは自身がヴィランとなった。そこからすべて間違えたのだろう。出来心で殺したことですべてがくるったのだ。
 でももう、すべてどうでもいいのだ。
 わたしの心には蓄積されていた愛があるから。
 薄暗い箱庭の中で、永遠に生き続ける。
 真雪ちゃんがいて、周防さんがいる、幸せだけを集めた箱庭。
 さあ、目を閉じましょう。
 愛の体温を感じましょう。



 おやすみなさい。


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