死は二人をわかつことができなかったみたいだ。
わたしは目覚めたら病室のベッドに横たわっていた。そこにいた看護師に全てを聞かされた。
──真雪ちゃんの死、わたしが罪に問われること、わたしの身体の状態──しかし、どの話も全て右から左へ流れていった。
わたしだけが残って、真雪ちゃんも周防京香もいなくなって。
わたしの愛と罪の罰。
もう、死にたいと思うこともなかった。
ただわたしは幻覚を眺める。
「おはよーさざれちゃん!」
「よーさざれーっ!」
幸せは、わたしの心の中にしかない。
なら、一生わたしは心の中という箱庭から出てこないよ。
ただ暗いだけの瓶のなか、目を閉じ幸せを噛み締める。
この汚れた世界は、わたしに罪を償わせるためにわたしを生かしたのかもしれない。
なら一生罪を償わない。
どんな罰であろうと。
わたしの心の中には幸せがあるから。
わたしを愛してくれる周防京香がいて。わたしを許してくれる真雪ちゃんがいて。
それで幸せだよ。
簡単なことだった。"汚れた世界"でも、真雪ちゃんと周防京香がいればそれで幸せになれたんだ。
ああ、馬鹿だなぁわたし。
左手首の傷痕が疼く。
空っぽの病室に、あとどれくらいいればいいのかな。
もうどうでもいいけど。
わたしはすべてを失った。
だからもう、失うものはない。
幸せの中に閉じこもって、全てを塞いでしまえば、きっと。永遠に。
過去に犯した男子高生の死のおかげで、わたしは愛を知って、幸せを知って。
ありがとう、男子高生くん。
おやすみ。
「...その、わたし、昔線路に人を突き飛ばしちゃったことがあって。だから、いじめられてて...でも、仕方ないのかなって」
「そんなことないよ、事故だったんだからね」
「さざれのことはアタシたちが守るからね」
「......っ、うん、ありがとう。大好きだよ。周防さん、真雪ちゃん」
わたしは、幸せ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。