第18話

終幕 私はすべてを失った
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2022/02/20 09:23
 死は二人をわかつことができなかったみたいだ。

 わたしは目覚めたら病室のベッドに横たわっていた。そこにいた看護師に全てを聞かされた。
 ──真雪ちゃんの死、わたしが罪に問われること、わたしの身体の状態──しかし、どの話も全て右から左へ流れていった。
 わたしだけが残って、真雪ちゃんも周防京香もいなくなって。
 わたしの愛と罪の罰。
 もう、死にたいと思うこともなかった。

 ただわたしは幻覚を眺める。
「おはよーさざれちゃん!」
「よーさざれーっ!」
 幸せは、わたしの心の中にしかない。
 なら、一生わたしは心の中という箱庭から出てこないよ。
 ただ暗いだけの瓶のなか、目を閉じ幸せを噛み締める。
 この汚れた世界は、わたしに罪を償わせるためにわたしを生かしたのかもしれない。
 なら一生罪を償わない。
 どんな罰であろうと。
 わたしの心の中には幸せがあるから。
 わたしを愛してくれる周防京香がいて。わたしを許してくれる真雪ちゃんがいて。
 それで幸せだよ。
 簡単なことだった。"汚れた世界"でも、真雪ちゃんと周防京香がいればそれで幸せになれたんだ。
 ああ、馬鹿だなぁわたし。
 左手首の傷痕が疼く。
 空っぽの病室に、あとどれくらいいればいいのかな。
 もうどうでもいいけど。

 わたしはすべてを失った。

 だからもう、失うものはない。

 幸せの中に閉じこもって、全てを塞いでしまえば、きっと。永遠に。

 過去に犯した男子高生の死のおかげで、わたしは愛を知って、幸せを知って。
 ありがとう、男子高生くん。
 おやすみ。


「...その、わたし、昔線路に人を突き飛ばしちゃったことがあって。だから、いじめられてて...でも、仕方ないのかなって」
「そんなことないよ、事故だったんだからね」
「さざれのことはアタシたちが守るからね」
「......っ、うん、ありがとう。大好きだよ。周防さん、真雪ちゃん」

 わたしは、幸せ。

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