邪魔者の排除は失敗した。
愛する人への告白も失敗した。
汚れのない世界への逃亡にも失敗した。
移ろいゆく季節、何にも動じない少女。
視界を閉ざした少女には、もう幻想しか見えない。
少女は人を殺めることに快感を覚えるような人間ではない。息をするように嘘をつくような人間ではない。
ただ、愛に狂わされたのだ。
わたしは飛び降りて、かなりの重傷だったらしい。
開放骨折とか、断裂とか、とにかく痛々しいような単語を並べながら怪我の状態を説明された。今では包帯も取れてきているけれど、怪我して間もないころはミイラみたいだったなぁ。
でもまぁ、別に痛いと感じることはないけれど。
わたしを動かすのは、箱庭の中のわたし(しあわせなわたし)だから。
今後も色々な痛みや苦痛が待ち受けているのだろうけど、箱庭が無事であればわたしも平気だ。
──そう思ったのだけれど。
痛い。心も体も痛い。
わたしはこの身に釣り合わないほどの罪を背負っている。これは自分ではっきり罪だと認識している。
後悔してどうにかなることではないけれど、何も感じないわけがない。
箱庭がどんなに幸せであれど、あくまでそれは幻想。
わたしは普通の人間だ。
愛に狂わされ、今は正気を取り戻した、サイコパスでも変人でもなんでもない、どこにでもいる中学生だ。
わたしは罪のない人間の命ばかりを身勝手な理由で奪っていった、最低の人間だ。
罪に見合う人生を送っていかなければならない。
辛い。死にたかった。
ああ、だめだなぁ、わたし。
どうしてこうなってしまったのかなぁ...。
涙が後悔とともに溢れ出る。
ごめんなさい。
名前も知らない男子高生。
周防さん。
真雪ちゃん。
迷惑をかけた周りの人々。
幸せなんかになれない。箱庭なんてもういらない。
ぐちゃぐちゃの黒い渦が心を覆う。
ごめんなさい。ごめんなさい。
後悔したって遅いけれど。
わたしはずっと、愛を恨み、人々に罰せられ続ける。
それでいい。
みんなみんな、それを望んでいるから。
「さざれちゃんっ」
「さざれー」
もう聞くことのできない声に、耳を澄ませ。
十字架を背負う者として、わたしは生きていく。
それでわたしは、幸せなのだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!