第14話

第三幕 第2話 たくさんの小さな思い出
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2022/02/20 04:43
 ──東京駅。
 最寄り駅ではないが、一番好きで一番わかりやすい駅だから、よく利用している。
 何度も見た駅なのにも関わらず、毎回新鮮で魔法にかけられたような気分になる。
 今日は、あの日のように八重洲側で待ち合わせ。わたしとしては、八重洲口のほうが好みだったりする。具体的な理由があるわけじゃないけど。
 わたしは腕時計で時間を確認する。しかし、まだ待ち合わせ時間まで十分はあるようなので、景色をぼーっと眺める。
 ──そういえば、真雪ちゃんと連絡先を交換してなかったな。
 死ぬ前に連絡先くらい交換していたい。

 他愛もない事を考えていると、真雪ちゃんの姿が目に映る。
「さざれちゃーん」
 大げさに手をふるその姿が愛らしい。
「待った?」
「ううん。さ、行こうか」
 真雪ちゃんは笑顔を浮かべる。ああ、わたしの心が浄化されていく。
「京葉線乗り場は...こっちかな?」
 東京駅構内で、真雪ちゃんは指をさす。確かにそこには、京葉線などの文字があった。
「...そうだね。あ、帰りに何かお土産を買っていこうか。」
「それもいいかもねー」
 そんなことを話しながら京葉線ホームに向かう。発車時刻まではまだ時間もあるため、特に急ぐこともなく余裕をもって歩いていた。
 その時、わたしの手に真雪ちゃんの手が触れる。
 真雪ちゃんの手は、とても暖かくて、柔らかい。
「...私、迷子になっちゃいそうだから。さざれちゃんと、手繋いでおきたくて」
 そう言う真雪ちゃんの頬は、少し桜色に染まっていた。
「......うん。」
「...あっ、この階段のここ、マジカルランドの広告がある!」
 真雪ちゃんの声で、わたしは夢から覚めた気分になる。まだ手の温もりが確かにあるのに。
「やっぱ国民的なテーマパークだな〜」
「...あ、そろそろ急ごう。もう二分ちょっとで電車来ちゃうよ」
 わたしは片腕の腕時計を真雪ちゃんに見せる。真雪ちゃんは「ぎゃああ」と悲鳴を上げてから、わたしの手をぐいっと引っ張った。
「やばいやばいここで遅れたら洒落になんないよ〜!」
 慌てて階段を駆け下り、京葉線ホームへ向かう。
 なんとかホームに着いた時、丁度電車がやって来た。
「よし、乗ろう。」
「降りる駅は、確か舞崎駅でよかったかな?」
「うん、合ってる。ちなみに、舞崎ってのは地名じゃなくて、マジカルランドの創業者関係で付けられた名前なんだよ。」
「へぇ、詳しいね!」
 真雪ちゃんと他愛もない話をする時間は、どんなに幸せだろうか。会話を続けながら、わたしたちは電車に飛び乗った。
「たしか、ここからあと八丁堀、越中島、潮見、新木場、葛西臨海公園で舞崎だった気がするよ」
「まだ時間はかかるねぇ〜」
 電車に揺られながら、真雪ちゃんと見つめ合う。
 あぁ、なんという幸せ...。周防京香がいたら、こんな事はできなかっただろうな。
 死ぬまであと1週間もないんだから、このままずっと幸せでいいよね。

 真雪ちゃんとのたくさんの小さな思い出を、わたしといういつか消えるアルバムに遺そう。

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