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第5話

昔話の僕
59
2021/01/30 01:07
『先生、色が分からないのは僕が ”出来損ない” だからですか?』


「え、」





何となくその言葉には聞き覚えがあった。



(なんか知ってる…)



いつかそんなあだ名で罵られていた子が居たような、、、



「あーーーーー!!!!」


『!?
先生ここ病院』


「あぁわりぃわりぃ」






思い出した。


僕が中学生の時、職務体験の時にいた虐められていた男の子。


時折見覚えのあるような話とか顔だなぁと思ってたけど今ので分かった。


あの男の子りょーちゃんだ。





「りょーちゃんりょーちゃん」


『なに』





子供のくせに生意気な態度なのもそっくり。





「その言葉まだ引きずってたんだねぇ」


『? まだって何、先生にこの話した事ないでしょ』
「いーやあるねぇ。なんなら僕見てたからねぇ」


『見てたってどういうこと、先生いつもに増してキモイよ』






こんなにハキハキものを言う子供、忘れるわけが無い。


それにこの男の子は、





「りょーちゃんが僕に夢をくれたんだよ」



________________________




そう言った先生はいつになく優しい顔をしていた。


いや、ごめん意味わかんない。


夢をあげた? 僕が先生に?


いやそもそも先生とは中学生になってから会ったんだし。
そんな感動するドラマみたいな事した覚えない。



「あっははっ やーっぱり覚えてねぇかぁ
そりゃそうだな、お前ガキだったし」


『1人で何言ってんの、ちゃんと説明して』


「んーー…」



先生は少し悩むような素振りを見せると、割り切ったように話し出した。




「”雲色保育園” お前そこの児童だっただろ?」


『、うん』


「そこに職務体験行ったことあんだよ。
覚えてない? ずっとお前とつるんでた中学生」



中学生、、、職務体験?

僕とつるんでた人、、、





『なんとなく、居たような?』


「やっぱそんなもんかぁ。 残念。
もっとばーっと思い出して映画みたいな展開くるかと思った」





あまり表情の変わらない先生が今日はいつになく残念そうにした。




(これで顔色がわかればもっと良いのに、)




ん、?もっと良い?
人の顔色なんてどうでも良いじゃん。




(また訳わかんない気持ち出てきた…)




自分自身に疑問をぶつけながらそんな気持ちは無視した。



『もっと詳しく教えてよ、印象に残るような事言ったりしてないの?』



「え、いやまぁ、言ってない訳じゃねぇけど…」





珍しく先生が言葉を濁した。




(今日は珍しい先生がいっぱい見れる日だ)




何故かそんな事で喜びを覚える。




(今日の僕本当にどうかしちゃってるや)


『ハッキリ言ってよ、どんな事言ったの?』


「んーー……僕は言ってもいーけどりょーちゃんが恥ずかしくなるよ?」





恥ずかしくなる?

え、じゃあ聞くのやめようかな、なんて簡単に揺らいでしまう自分が憎ましい。



僕が悩んでいるのを察したのか、先生は別の提案をしてきた。




「じゃありょーちゃんに聞きます。」


『? うん』


「りょーちゃんにとって ”赤” はなんですか?」



”分からない” 僕と同じ遭遇の人はそう答えるだろう。


実際僕だって最初に出てきたのはその言葉だ。





『赤ってどんな色だっけ、』




まるで昔話をするかのように尋ねた。





「そうだなぁ、強いていえば
”暖かく包み込んでくれるような色” かな」





一瞬で既視感に襲われた。





”いろがわかんねぇのはデキソコナイだからなんだぜ”

”りょーまくんはふつうじゃないんだね”





違う、きっとそんなことを思い出したいんじゃ無い。



” せんせい、あかってどんないろ? ”

” そうだなぁ… ”






(” 暖かく包み込んでくれるような色 ”)





あー思い出した。

僕と先生、知り合いじゃん。







『思い出した。』




先生はぱぁっと顔を輝かせた。


あれ、でも、



『別に恥ずかしい事なんて無くない?』






僕が本心に辿り着くまで、
物語はあと少し足りないらしい。

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