第3話

口下手な僕
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2021/01/24 12:03
(人参ってこれで良いよね、)



僕は今お母さんに頼まれた買い物をしている。


学校に行かず暇している僕は、
日中に頼み事をされることが多い。


別に頼み事をされるのは良いけど
色の分からない僕にとったらたまに似た形の物が何か分からなくなる。


人参なんて普通なら分かるのに
これは茎の部分が切られていて少し分かりにくい。




(障害者に優しくないなぁ)




そんな事を思いながらレジに向かう。


と、僕と同じ学校の制服を来た人達がスーパーに入ってきた。





[お前奢りだからなー!!]
[ほんとずりぃわ、あれは無いだろ]




中々の大声で話していて結構迷惑。




(てかあの名札、)




彼らの胸に律儀に付けられている名札は
僕のクラスを表していた。



一瞬声をかけられたりするかなと
ヒヤッとしたが




(さすがに顔分かんないよね)




そう思い直して少しだけ顔を隠すようにしながらレジに並んだ。


しかしその考えが悪かったのだろう。





[ありがとうございましたー]




威勢の良いおばさんの声を耳に挟みながら
スーパーを出ようとした所で肩を叩かれた。


『、?』


[あ!やっぱり!!
え、っと浅井くんだっけ??]





スーパーに入ってきた同じクラスの1人が
声をかけてきた。





(嘘でしょ声掛けてきたじゃん。サイアク)



『浅井であってるよ、こんにちは』





クラスの人の名前を覚える気なんて微塵も無い僕は名前も分からない男子にとりあえず挨拶をする。



[ちわー!! 俺犬澤イヌサワな!
出席番号お前の次だから顔分かったわ。
合ってて良かったー]





(マメに名前まで名乗って馬鹿みたい、それがどうしたって感じ)




他人の事に糞ほど興味が無いので、
適当に相槌を打って帰ろうとした。




[おい健翔ー、お前アイス選ばねぇのかよ]
[あ、えらぶえらぶ]




別の男子が来たのでこれで帰れるかなと思い、
背を向けたところでまた声をかけられた。





[あ、この人不登校の人じゃん、]
[おいバカわざわざ口に出して言うなよ]




後から来た男子が明らかに僕に向かって言ってきた。

(不登校で悪いか)



そんな意味を込めて横目で男子を睨むと、
思いもよらない一言が返ってくる。





[学校サボるとかズリィよなぁ
俺真面目だからサボんねぇけど、羨ましぃわ]



(は、?)





久しぶりにこんなにイラッときた。


行かないのは行かないなりに理由があるし
行かなくても勉強してんだから良いんだよ。


本当はそう言ってやりたいけど
必要最低限しか喋らない僕に弁解する気力など無い。





『他人に迷惑をかけてる君たちより、よっぽどマシだと思うよ』



[はぁ?]





後から来た男子がイラついた表情を見せる。




(なに、なんで怒るの。
別に暴言言ってないじゃん)
[僕は他人に迷惑かけてないですってか??
お前ふざけんのも大概にしろよ]




荒らげた声のまま胸ぐらを掴まれる。





(なんで、ふざけてないよ。)




心の中で弁解できたってそれが言葉にならない。


ただ怖い。
同年代の子にこんなことされた事無いから
どうしたら良いのか分からない。


多分この男子達を呼びに来たのであろう
また別の男子が僕らを見ている。





(助けてよ)



見ているだけ。





[なんか喋ったらどうだよ。
いつも澄ました顔しやがって、]


(なんでそんなんで怒るの、喋るのは嫌いなんだよ。
面倒臭い、離してよ)





目で全部を語ろうとする。


それが悪い癖ということにもう少し早く気付いていれば、誤解を産まずに済んだのかもしれない。





『僕は悪くない』



そう発した次の瞬間には頬に強い痛みが走っていた。
『いっ…』


[お前バカ!やりすぎだろ!]
[え、つくづくバカじゃん何してんの]





見兼ねた他の男子たちが僕の頬を殴った彼を罵る。





(ほんとバカじゃん。)




怒りを通り越して呆れた僕は
ジンジンと痛む頬をさすりながら歩き出した。





[っおい、浅井くんだいじょぶか?]





犬澤と名乗った人が僕を呼び止めた。


もう良いよ、今更心配とかいらない。


心配するなら最初から止めに入ってよ。





『大丈夫だから、もう喋りかけないで』


[は?]





口下手な僕はまた1人、
僕を恨む人を増やしてしまったようだ。

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