第2話

普通ではない僕
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2021/01/24 07:07
僕はちょっと普通ではない中学3年生。


勉強はそこそこできるし、
運動は苦手ではない。


俗に言う ”普通” ってやつ。


ただ、他の人にはバレていない皆と違うことがある。




浅井 良未アサイ リョウマくん、次どうぞ]


看護師さんの声が聞こえて
生半可な返事をすると立ち上がった。


ここは病院。


少し大きめの病院で
僕はここに最低でも月1回は通っている。


その理由は、




[目、なんか変わったことない?]


『大丈夫です』




僕は先天色覚異常の1色覚を患っているから。


簡単に言うと色盲ってこと。
色が分からない。


僕は重度の色覚異常ならしくて
3万人に1人ぐらいがなるらしい。




[じゃあ、今月も目薬出しとくね]


『ありがとうございます』




受付で目薬などは受け取るので
僕は手ぶらで病室を出る。


ぶっちゃけ色覚異常は何度も検査をする必要は無く、
通院だってしなくて良いのだが
僕が病院に通う理由はもうひとつあるのだ。




『…こんにちは』


「お!来たなりょーくん!」


『その呼び方やめてください』


「良いじゃん良いじゃんっ
月に1回会う仲なんだし!!」





そう言って僕の頭をわしゃわしゃと撫でてきたのは
この病院の精神科の担当医である笹凪ササナギ先生。




「今月はどーよ??
学校行った?」


『行くわけ無いじゃん』
僕は過去に色々あって学校に行けていない。


たまに何かの行事がある日の午前だけ行ったりするくらい。





「行くわけ無いとはこりゃまた言うねぇ」




菓子パンを開けながら
語尾を伸ばす特長のある話し方をする。


診察料を払わなくていい代わりに、
先生がお昼休憩をしている20分間だけお話している。


僕的には精神になんにも問題ないはずなんだけど
親がうるさくてこうして先生の元に通うようになった。


「目は? ちゃんと見えてる?」


『見えてるよ。 色は全然分かんないけど』




先天色覚異常の1色覚は色が分からないだけではなく視力も弱いので
僕は遮光眼鏡を日々かけている。


その上視力が低下しやすくて僕は年々目が見えずらくなっているような気さえする。


このままいけば全く目が見えなくなることも稀じゃないらしい。


まぁそんなのはどうでも良くて、


『早く死ねないかなー』


「あ、お前またそんな物騒なこと言う!!
お前が死んだら僕が許しませぇん」




くちゃくちゃと音を立てながら
中々に汚くパンを食べる。





『先生には関係ないでしょ。
なんで僕が死ぬの止めるの、』


「そりゃまぁ1人の患者だし、
お前はまだこの世界を楽しめてないからな」


『はぁ? この世界なんて楽しめないでしょ。
てかそんなのゲームしてたら良いし。』


「いやそういう事じゃ無くてだな、」


先生は手を顎に当てて考える素振りを見せる。




「じゃありょーくんに質問です」




袋に入ったパンを机に置くと、
僕に体を向けて真面目な顔になった。




「貴方はこの世界が美しいと思いますか?」


『、、、思わないに決まってんじゃん。
だって色分かんないんだし、』




僕の本心だった。


綺麗とか美しいとか、そういうものってきっと色からくる。


これがキラキラしてる、この色が好き、
そんなの僕には分からないんだから。


「自分のその感情が勿体ないとは思わねぇの?」




先生はつまらなそうな顔をすると
またパンを咥え出した。




『勿体ない? なんで、』


「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました」


『え、なに、きもい』




先生が咥えていたパンを噛みちぎると、
僕の肩に手を置いた。


「この世界はなぁ、
りょーくんが思ってる以上に綺麗だぞ。
その瞳だって、綺麗な色だ」




顔をグンと近付けてくる。




『だから、その色が分かんないって言ってんじゃん』




僕は近すぎる距離に背中を反らせる。





「じゃあ条件を出そう」


『? どんな、』


「お前がこの世界を心の底から綺麗だと思ったら、
死んで良い許可をやる」


『は、?』





それは簡単に思えて僕にとっては
絶対に達成出来ないであろう条件だった。

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