「あ、そうですか。なら良かったです。じゃあ、もう一回聞きますね。よく眠れましたか」
久保田さんは朝で眠いはずなのに、笑顔で私に質問をしてくれた。
仕事だって、分かってる。
でも、誰かを慰めるような優しい声で私に言ってくれるのは私だけのように錯覚を受ける。
「はい。よく眠れました」
私は笑顔で答えて、この感情を消すように久保田さんと話した。
「…そうですか。便通はどうですか」
え? 男子が女子に聞きます? それも仕事だもんね。
「…いえ、ないです」
そう一言言って、私は久保田さんに言った。
「分かりました。次は、血圧測定ですね」
久保田さんは淡々と業務をこなして、私の血圧測定を終えた。
そして、片付けをしている最中、久保田さんに私は話しかけられた。
「…花野さんは高校3年生だよね?」
久保田さんに私は話しかけてくれた。
「は、はい」
業務以外に話しかけてくれた。嬉しすぎる。
でも、顔に出ないように。
「へぇー、若いね」
微笑みながら、自分の手元を動かしていた。
「あの、く、久保田さん」
私は久保田さんに声をかけた。
「はい」
久保田さんは目を丸くして、はい? と言い、私の方に向き直していた。
その姿にドキッとしつつ、久保田さんを見て声を発した。
「あ、あの。失礼かもしれないけど、年齢聞いてもいいですか」
モジモジしながらも私は久保田さんを見た。
すると、久保田さんは呆然と私を見て、驚いた表情をしていた。
数秒、お互い黙っていた。
数分後、久保田さんは豪快に笑っていた。
「あはは……ごめん。花野さん。あなたのことを馬鹿にしている訳ではないんです。ただ、素直に聞いてくる患者さんは初めてなので、驚いちゃって」
久保田さんは目に涙を浮かべるほど、笑っていた。
そんなに笑わなくてもいいのに、もう。でも、久保田さんが笑う姿、始めてみたな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!