引退してから怪我を負ったものの
松葉杖で割と普通に生活はできた。
久しぶりにチームメイトたちに会ったのは
夏休み最後に行われた女子バレー部の
3年生慰労会のときだった。
松葉杖で登場した私の姿に
チームメイトたちは心配してくれた。
私たちの最終目標である
県制覇全中出場は達成できなかったが
県上位4校が出場できる東北大会には
私を除いたチームメイトが参加していた。
この怪我のせいで大会には出れないにせよ
応援しに行こうと思えば行ける状態だった。
仲間の最後の勇姿を見に行けるチャンスだった。
でも
"見ているだけ" が
私にとって一番の苦痛だった。
もしあのとき私がブロックで相手の速攻をちゃんと
止めていたら全国の舞台に立てたんじゃないか。
みんなの本当に行きたかった最後の夏への切符を
途絶えさせずに済んだんじゃないか。
頭の中に最後の瞬間がフラッシュバックする。
そんな思いをしながら最後の戦いを見届けるのか。
そんなの……絶対……
「嫌だ……」
目の前の苦しみから私は逃げた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!