今日は朝から宙が忙しい。
どうやら今日はお菓子を作るらしい。
こいつの作る料理も簡単なお菓子も、凄く美味しくて、俺は大好きだった。
口から出たのはそんな言葉。
本当はそんな言葉を言いたい訳じゃないのに、宙だからと思って甘えてしまう。
こいつのお菓子に毒でも入れてやろうか
と宙の呟きが聞こえる。
ったく物騒な野郎だ。
その時
ドゴォォン
巨大な雷が、家の近くに落ちた。
その衝撃で宙が体制を崩す。
俺は急いで宙を支える。
俺は窓から外を見ようと、勢いよくカーテンを開けた。
窓から見えた外には、光が無かった。
そうだ。あるはずがない。
ずっとここで暮らしてきたが、光が無くなったことなんて1度もなかった。
俺も、初めての事だった。
後から思えば、この時俺は、結構恥ずかしいことを言った。
そんな事も考えられないほど、俺は内心焦っていた。
俺の焦った顔と、住人の悲鳴を聞いて、宙はますます不安になってしまったのだろう。
いつも元気な宙が、震えていた。
不安と恐怖に苛まれていた。
俺はそっと、宙の手を握った。
外を見ていて分かったこと
・人間じゃない住人が暴走している事
・その住人が、人を狙っていること
……以上。
改めて宙を見てみる。
綺麗な蒼色の瞳が潤んで、キラキラと光っていた。
……やっぱり、頼りないって思ってるのか?
それとも、頼れる、信頼出来るやつだと思ってるのか?
宙が考えていることはいつも、だいたい予想がつく。
けど、こいつの気持ちだけは分からない。
俺の脳内で、誰かが俺の名前を呼んでいる。
その声は、どこかあいつの声と──
そう、これだ。
この声と似てる、どこか懐かしい声。
そうだ。
俺は昔、ずっとこの声を守りたいって、強く思ったんだ。
ずっとずっと俺はお前が大切だった。
けど、こんなに大事なのに、誰か分からないんだ。
けどなんか、不安には思わない。
今は、宙のことを1番に考えてる。あいつがどうやったら幸せでいられるか。
…俺が、あいつの事を幸せにしてやりたい、とか思ってみたり。
この気持ちって、まじなんなんだろうな。
ホント、調子狂う。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。