家は高校から歩いて通える距離。
電車賃もかからないから、有難い。
家の前には公園がある。
ー休日は子供たち。
楽しそうに声を上げて遊具で遊ぶ。
無邪気でとても可愛い。
ー夜は大人。
月の光に照らされ、静かにブランコに座る。
そうする人達は何かしら抱えてる人。
家に入る前に、そっと公園を見てみる。
ーまだ日もある。
子供たちがチラホラ遊んでるくらいだ。
ー今日は大人が迷い込むだろうか……?
そう言い捨てて家に帰る。
家に帰っても、シンとした空気だけで誰かが
帰りを待っている訳でもない。
返って来ないと分かっていてもそう言ってしまうのは
日本人のクセなのか?
自分の部屋に行き、部屋着に着替える。
ーそして律生は本棚の前に立つ。
無数の雑誌が並べられた本棚
指を沿わせ、何を見るか考える。
大事そうに胸に抱え、リビングへと降りる。
ーソファに腰掛け、雑誌を見始める。
雑誌をみてイケメンを眺めること。
それが律生の癒しの1つ。
ー誰にも言えない秘密。
口元を緩ませて、雑誌に見入る。
するとー
『ぁぁぁぁぁあ!!!!!また雑誌みて笑ってる!』
いきなり玄関が開き、大声がした。
水瀬 夏生。
ー夏生は僕の弟。
でも、僕とは違ってすっごく可愛い天使。
夏生も僕の癒し。
水瀬家は、色々な事情により複雑だ。
ー父さんはいなくなった。
ー母さんも実質いないに近い。
ー夏生は学校に通えていない。
ー僕は本当の姿を隠した。
2人だけでも、ちゃんと過ごせる。
夏生はちゃんとお手伝いもできるし。
夏生の両親代わりに僕がなればいいだけの話。
あんな小さい子に、絶対見せては行けない物を
見てしまったんだ。
いや、小さい大きいなんて必要ない。
誰だって見ちゃいけないもの。
取り返しはつかないけど。
ー夏生には、楽しく生きてもらいたいから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!