第8話

衝突
44
2020/10/04 12:26
ー玄関の前に立って、どのくらい時間が経っただろうか
「スカウト」された、ということよりも
「夏生」にどう説明すればいいか、が頭でずっと
ぐるぐるしている。

だけど、あの男の人が「決断」のきっかけではない。
ー男の人はただの「後押し」でしか過ぎない。

だからこそ、伝えにくい。
水瀬 律生
水瀬 律生
(ああああああ……どうしよう……
夏生になんて言おう……。)
アイドル、なんて口にすれば兄弟関係だって……。
水瀬 律生
水瀬 律生
でも、だからって隠し通せるわけも
ないよね……。
ひとまず、家に戻ろう。
そう思い、ドアノブに手をかけ扉を開いた。
水瀬 夏生
お兄ちゃん。
水瀬 律生
水瀬 律生
ひぇっ!!!???
水瀬 夏生
ずーっとドアの前立って!
風邪ひくでしょ!
水瀬 律生
水瀬 律生
えっ……ぁあ、ごめんね……?
夏生は上半身裸で、首元にタオルを。
水瀬 律生
水瀬 律生
いや夏生の方が風邪ひくよ……?
水瀬 夏生
誰のせいだと思ってるの
水瀬 律生
水瀬 律生
ご、ごめん……
水瀬 夏生
もう、いいからお兄ちゃんも
早くお風呂入っちゃいなよ
夏生はそう言うと、リビングへ向かおうとした。
水瀬 夏生
……?
きゅっ、と律生にズボンの裾をつままれ振り向く夏生。
水瀬 律生
水瀬 律生
ごめ……ん夏生……。
僕、アイドル……になる……かも
水瀬 夏生
っーー
息が詰まる様な思いで打ち明けた。
ーよく見ると、夏生の肩は震えていた。

怒られる、怒鳴られる、のは重々承知。
水瀬 律生
水瀬 律生
僕ら家族を……壊した存在だって
わかってるーでも……
バン!!!!!!と壁を叩き叫ぶ夏生
水瀬 夏生
じゃあ、そういう存在だって
理解した上でなろうって思ってるの!?
水瀬 夏生
希望と幸せを与える代価として
絶望も一緒に振りまく存在。
水瀬 律生
水瀬 律生
……!?
いつかの僕が、夏生に言った言葉。
水瀬 夏生
お兄ちゃん、そう言ってたよね!?
ー僕には「絶望」しか与えてくれない!
絶望を与えた張本人だって、僕らの
目の前から消えて姿を晦ました!!!!!!
水瀬 律生
水瀬 律生
わかってるよ!!!!!!
母さんだってーー
水瀬 夏生
何も分かってないお兄ちゃんが
母さんの事を口にするなよ!!!!!!
水瀬 律生
水瀬 律生
……な、つ……き
水瀬 夏生
今どんな気持ちで母さんが過ごしてるか
お兄ちゃん知らないでしょ!
ーだって母さんの所に1度しか行ってない
それもーもう随分前の話!!!!!!
水瀬 夏生
そうだよね!!!!!!
母さんの目の前に立てないよね!?
ー母さんを傷つけた存在にお兄ちゃんは
憧れてたんだから!
水瀬 夏生
あぁ……そっか
ーお兄ちゃんの諦めた「夢」を
思い出させたのはあの「男」かー
水瀬 律生
水瀬 律生
……夏生!!!!!!
律生は、我慢ならず夏生の頬を叩いた。
水瀬 律生
水瀬 律生
あの男の人の為でもある。
ーだけどあの男の人は僕の背中を
後押しした存在に過ぎない!!
「僕」が決断した事だ!!!!!!
水瀬 律生
水瀬 律生
僕のせいなんかで……あの人を
死なせたりしたくないんだ。
水瀬 夏生
ーーーお人好し
どうせ、不幸にしちゃうくせに
夏生は、そう言い捨てると自室へこもってしまった。
水瀬 律生
水瀬 律生
……はぁ……やっぱりこうなった……。
でも、夏生が言ってることは全て正しい。
正論だ。
母さんの所には、行けない。
いつも夏生に任せっぱなしだ。

ー僕が行って嫌な気持ちにさせたくないしね。
水瀬 律生
水瀬 律生
……不幸にさせる……。
確かに……そうなんだよね……。
明日までに、ちゃんと自分の気持ちを整理して
おかないと。
中途半端な気持ちじゃ……やっていけない。

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