キラキラ光る宝石ばかりの空間にひとりの瞳が宝石以上の光で辺りを照らしている
私はこの頃、この夢をよく見る
悪夢じゃない、どこか嬉しくて、もっとその先の夢を見たいと思うけれど、
ひとりの少年が笑っているところで夢は終わってしまう
目が覚めて、天井を見上げていると響く扉の音
そう花束を腕に抱えながら私の頭を撫でるのは渡辺さんという人
その花はブルースターという私が以前好きだった花だと彼から聞いた
この話を聞いてわかっただろう
皆さんの頭に浮かんでいるであろう、私は記憶喪失らしい
この人は恋人でもなんでもないが、勤めていた会社の先輩らしい
「あなたとは恋人同士のように仲が良かった」と友達のユカは言っていたけど、私はこの人が思い出せない
夕方の病室では私の手を握りながらベッドの横で寝ている渡辺さん
赤ちゃんのような可愛い寝顔と肌
もしかしたら、私はこの寝顔を前にもこうして眺めていたのかもしれない
渡辺side
渡辺さんとあなたに呼ばれる度に胸が苦しくなる
前は翔太くんって呼んでくれたのにって
記憶喪失のあなたに対して思ってしまう
俺は彼女の事が入所当初から好きだった
一目惚れだった
元気いっぱいに挨拶をする彼女の姿に俺たち先輩は癒される
人に誰よりも優しい彼女だけど、動物と植物を傷つける事は何よりも嫌う
寒空の中、公園でダンボールもなく身体ひとつで小さな身体を更に小さくさせて寒さに震えている子猫をあなたは抱きしめた
道端に一輪だけ咲いていた花は、子供達が走って行ったことにより、傷ついた
誰よりも心が綺麗なあなたはある日突然、俺だけを忘れて記憶喪失になった
きっとあなたがこれから俺を思い出したとしても
一生この言葉を忘れる事はできないだろうな
1か月2か月とあなたと時間を過ごしていくと少しずつだけどあなたは俺のことを思い出してくれるようになった
いつも通りあなたの病室にお見舞いに行き、持ってきたブルースターの花束を花瓶に入れていると…
この翌日、
あなたはいなくなった
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。