第6話

(文化祭編)
20,044
2019/09/14 04:09
あちこちから、ワイワイと楽しそうな声がする。

ペンキを片手に看板づくりに励む生徒や、教室の飾り付けを楽しむ生徒、体育館でバンドのリハーサルをする生徒や、屋台の準備に忙しく走り回る生徒。

ついに明日は高校生になって初めての文化祭!

準備期間ですら楽しくて、中学の頃よりずっと自由で、みんなキラキラしていて。

こんなにもワクワクする行事だなんて、準備を始めた頃は思ってもみなかった。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
楽しみだね、文化祭!
安藤叶多
安藤叶多
茉夕は初めての文化祭だもんな
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……うん!
中学の時はもっと規模も小さくて
決まり事ばっかりだったから
高校生って自由だな〜って!
安藤叶多
安藤叶多
確かに……
中学の時はそうだったかもな
安藤叶多
安藤叶多
俺は、これが最後の文化祭か〜
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……!そ、そっか……!
叶多くんにとっては最後なんだ
安藤叶多
安藤叶多
なんか、今更だけど
もうすぐ卒業なんだな〜
少し寂しそうな顔をする叶多くんを見ていると、私まで寂しくなってくる。

だけど、せっかく叶多くんと過ごせる幸せな時間なんだから……と。しんみりした空気を吹き飛ばしたくて、私はわざと明るい声を出した。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
そうだ!
叶多くん、明日の文化祭
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くんさえ良かったら
一緒に回りたいな……って
付き合ってるのに、一々聞くのっておかしいのかな?なんて、聞いてからソワソワする私を見て、叶多くんがフッと小さく笑う。
安藤叶多
安藤叶多
俺は、最初っから
そのつもりだったけど?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……!!
叶多くんってば、本当にずるい。
簡単に私をキュンとさせて、真っ赤にさせちゃうくせに、自分は余裕な顔で笑ってるんだから。

でも……悔しいくらい、かっこいいな。

私もいつか、叶多くんにドキってしてもらえるように頑張らなくちゃ。
〜文化祭当日〜
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ!見て見て、叶多くん!
うさぎさんが風船配ってる!
ピンク色のうさぎさんの着ぐるみは、胸の辺りに黄色の蝶ネクタイを付けて、片手に色とりどりの風船を持っている。

小さい子ども向けなのかな?と思いながらも、風船欲しいな〜……なんて。私の中の子ども心が騒ぎ出す。
安藤叶多
安藤叶多
あれ、中に入ってんの佐藤
佐々木茉夕
佐々木茉夕
えっ!さ、佐藤先輩……!?
安藤叶多
安藤叶多
アイツ、ジャンケンで負けてさ。
俺らのクラス縁日だから、
その客呼びやってんだよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え!!縁日……?
叶多くんの言葉に目を輝かせれば、叶多くんが顔を引きつらせたのが分かった。
安藤叶多
安藤叶多
……すげぇ行きたそうだな
佐々木茉夕
佐々木茉夕
い、行きたい!!
昔からヨーヨー釣りとか、射的とか、輪投げとか大好きで、縁日なんて聞くとテンションが上がってしまう。

少し渋っている様子の叶多くんに、”お願い”と胸の前で手をスリスリと合わせてみる。
安藤叶多
安藤叶多
……はぁ。じゃあ行く?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
やった〜!
安藤叶多
安藤叶多
と、その前に……
そう言いながら私から離れて、数歩歩き出した叶多くんを不思議に思いながら目で追えば……。
安藤叶多
安藤叶多
おい、貴也たかや
うさぎの着ぐるみを大きな声で呼んだ。

……佐藤先輩って、貴也って言うんだ。叶多くんが佐藤先輩のこと呼んでるの初めて聞いたかもしれない。
佐藤
ばっ!!
……デカい声で呼ぶなよ!!
佐藤
中に入ってんのが俺だってバレるだろ!
恥ずかしそうにジタバタしているうさぎさんを見て、思わず口元が緩む。

中身は完全に佐藤先輩だ。
安藤叶多
安藤叶多
それ、1個くれる?
佐藤
……それって、この風船のこと?
安藤叶多
安藤叶多
そう、うちの彼女が
さっきから欲しそうだから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!
嘘……!ば、バレてた!?
口には出てないはずなのに、顔に思いっきり出てたのかな?……うわ、超恥ずかしい!!

だけど、そういうちょっとした事に気づいてくれる叶多くんが好きだな。

「何色にする?」と手に持ってる全部の風船を差し出してくれた佐藤先輩から、赤い風船を1つ受け取った。
安藤叶多
安藤叶多
んじゃ、今度こそ行くか
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん!
佐藤
なんか、知らないうちに
佐々木ちゃん敬語じゃなくなってるし
並んでるだけですげぇカレカノっぽい
安藤叶多
安藤叶多
”ぽい”じゃなくて
”カレカノ”だから
佐藤
あのクールな叶多が
こんなこと言うようになるなんて
佐々木ちゃんすげぇな……
手を繋いで歩き出した私たちを見て、うさぎさん姿の佐藤先輩が嬉しそうに笑うから、私たちもつられて笑う。

叶多くんに距離を感じるって言われて、少しずつ敬語を使わない練習をしたんだ。

ずっと憧れてた叶多くんが私の彼氏だなんて、私だって未だに信じられないくらいだ。
〜叶多のクラス〜
スーパーボールすくい、ヨーヨー釣りにお菓子釣り、射的、輪投げ、ボール投げ。

けして広くない教室に、ギュッギュッと詰まった華やかな縁日に目を輝かせながら、叶多くんの腕を引っ張る。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くん!すごいね!
本格的だね!
安藤叶多
安藤叶多
……はしゃぎすぎだから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くん、ヨーヨー釣りしよう!
どっちが先に釣れるか勝負ね!
安藤叶多
安藤叶多
俺、ヨーヨー釣り……苦手
〜20分後〜

あれから、ヨーヨー釣り、輪投げ、ボール投げ、スーパーボールすくいをした私たち。

2勝2杯の引き分け。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あー、楽しかった〜
安藤叶多
安藤叶多
……疲れた
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あはは、叶多くん
みんなに質問攻めにされてたもんね
私と一緒に縁日を回る叶多くんを、叶多くんのクラスメイトたちが冷やかして、叶多くんは赤くなったり青くなったり。

なんだか、珍しいものを見せてもらった気分。

みんなから一斉に冷やかしを受けて余裕をなくしても、きちんと私を『彼女』だと肯定してくれたのが嬉しかった。
安藤叶多
安藤叶多
でも、これでみんなに茉夕が
俺のだってこと知れ渡っただろうし
安藤叶多
安藤叶多
……結果オーライ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……叶多くん
吉沢
吉沢
あ、佐々木も来てたんだ?
叶多くんの言葉に嬉しさを噛み締めていた私は、すぐ後ろから聞こえてきた声に振り向く。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ、うん……!
そこにいたのは、吉沢と仲の良い同じクラスの男子数名。
吉沢
吉沢
あー、そっか。
ここ安藤先輩のクラスだもんな
橋本
え?……なに?
もしかして佐々木って……
山田
先輩と付き合ってんの!?
橋本くんと山田くんに、グイッと距離を詰められてオドオドする。

さっきまで冷やかされてる叶多くんを見ているだけだったけど、いざ自分の番が来ると恥ずかしくて言葉が出てこないよ。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
えっと、あの……
……今絶対、顔赤いよ〜!!

『彼氏』と、叶多くんを紹介するのがこんなにも緊張することだったなんて……知らなかった。
橋本
付き合ってねぇの?
山田
あ、あれか!
佐々木の片想い的な?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
違っ……
安藤叶多
安藤叶多
なに固まってんだよ
咄嗟に、隣の叶多くんが私の手をギュッと強く握り締めて、少し自分へと引き寄せる。

その瞬間、身体中が沸騰したみたいに熱くなるのを感じた。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
か、叶多くん……!
安藤叶多
安藤叶多
ほら、ちゃんと答えろよ
俺は茉夕のなに?
手を繋ぐ私たちを見て、橋本くんと山田くんが「まじか」と驚いている。そして、何かを察したらしい。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……か、彼氏だよ
私の言葉に、叶多くんは満足気に笑う。
同時に橋本くんと山田くんは『やっぱり』って顔で項垂れている……。

不思議に思いながらも「次、行くか」と私の手を引く叶多くんに頷いて、3人に軽く手を振った。
山田
俺、ちょっと狙ってたのに……
橋本
……俺も
吉沢
吉沢
勝てないよ、安藤先輩には
教室を出る寸前、叶多くんが3人を振り返ったけれど、またすぐに歩き出す。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
どうかしたの?
安藤叶多
安藤叶多
……はぁ。
茉夕を残して卒業すんの
すげぇ嫌なんだけど
佐々木茉夕
佐々木茉夕
えっ……?
安藤叶多
安藤叶多
よそ見、すんなよ?
ギュッと恋人繋ぎで握り直されて、カァッと頬が火照る。

よそ見なんてできるわけない。
こんなにも私の中は四六時中、叶多くんでいっぱいなんだから。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くんしか見えないよ
人前では、あまりベタベタしたがらないクールな叶多くんが、今日は自分から手を繋いでくれた。

恥ずかしいけど、嬉しくて。
幸せすぎて、苦しくて。

きっとこれが、文化祭マジックとか言うやつなのかもしれない……なんて思った。

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