朝起きたって、サンタさんが来ているような歳でもないのに、まるで子どもの頃に戻ったみたいに、今日という日が待ち遠しかった。
つい、早く目が覚めて今日一日の流れを頭の中でシミュレーションしたりして。
……早く会いてぇな、って。
そればっかり考えてた。
いつもと同じ待ち合わせ場所に、約束の時間より少し早くやって来た茉夕。
バランスを崩しながらも茉夕を受け止めて、茉夕には気付かれないように、会えた喜びを噛み締める。
今日は12月24日。
俗に言う、恋人たちのクリスマスだ。
冬休みが始まってまだ2日なのに、たった数日会っていなかっただけで、こんなにも会えた時の喜びが大きい。
……卒業したら、もっと会えない日が続くんだろうな。しかも、高校には茉夕を狙ってる男たちがいっぱいいて……あー!耐えられんのか?俺。
って、やめやめ。考えると余計に寂しくなる。
無駄に敬礼ポーズまでして見せる茉夕を笑いながら、愛おしさが込み上げてくる。
『会いたかった』と言った茉夕に、俺と同じだって思えたから。
たった2日……なんて、茉夕の前では少しでもかっこよくありたくて、照れ隠しを言って強がってしまった。
本当は昨日の夜、今日が待ちきれなくて珍しく自分から電話をかけて、『おやすみ』がなかなか言い出せなくて、余計切なくなったくせに。
〜15分後〜
フライドチキン屋さんに並ぶ家族連れの列や、寄り添って歩く沢山の恋人たちでごった返す街の中。
目の前には大きなツリーと、それをキラキラと彩りながら光るイルミネーション。
と、それを見て子どもみたいにはしゃぐ、俺の彼女。……すげぇ可愛い。
チラッと横目で茉夕を確認してから、再び視線をイルミネーションへと戻す。
否定も肯定もしてないのに、茉夕はやっぱり楽しそうに笑っていて、その笑顔にまた満たされていく俺がいる。
”伝われ”と願って、繋いだ手にギュッと力を込めれば、すぐに茉夕も握り返してくれる。
これを『幸せ』って言葉以外で、なんて表現したらいいんだろう。
初めて会った日に、突然告白されて。
しかも、すっげぇボロボロ泣きながら。
いつもは、よく知りもしない相手なら尚更、告白なんて絶対に断るのに。
あの時の俺は、茉夕の涙を拭ってやりたいって思った。
……まさか、こんなにも好きになるなんて想像すらしてなかったけど、自分でもハッキリと自覚せざるを得ないくらい俺は茉夕が好きだ。
〜公園〜
人もまばらな夜の公園。
普段なら、この時間に人なんていないのに、さすがクリスマス。
なんて、思いながら空いてるベンチへと茉夕の手を引いて、並んで座った。
慌てて鼻を隠す茉夕に、つい声を出して笑えば、茉夕が驚いたように俺の顔を見てきて……
今度は俺が、恥ずかしさから顔を隠す。
緊張してるとか言って、敬語で話してたかと思えば、今度は俺を『可愛い』とか言ってからかってくるし。
本当に、茉夕には調子狂わされっぱなしだ。
いつも、バッグなんて持ち歩かない俺が、今日は珍しくボディバッグを身につけている。
その時点で、用意していることがバレてるかもしれないと思いつつ、ボディバッグからクリスマスプレゼントを取り出して、
茉夕の首元へと優しく巻いた。
きっと、茉夕は何をプレゼントしたって喜んでくれて、なんならプレゼントなんてしなくても『一緒にいられるだけで』と笑ってくれるだろう。
だけど───。
マフラーを巻く寸前、一瞬見えたネックレスに口元を緩ませて。上から重ねたマフラーに、……ちょっとずつ、茉夕の全部が俺でいっぱいになればいい、なんて。
茉夕と出会って、俺の中の”独占欲”ってやつが目覚めたらしい。
正直、茉夕のことだからプレゼントは用意してくれてるんだろうなって……思ってた。
───だけど。
そこには、よく知ったブランドの腕時計。
クラシックな丸いフォルムに、3針のシンプルなクォーツムーブメント。色は万能なブラック。
場面を選ばずに使えそうな”それ”は、間違いなく俺の好みど真ん中で。
大学生向けくらいのブランドとはいえ、高校生の俺たちが手を出すには、躊躇われるくらいの値段はする代物だ。
全然気づかなかった。
……まぁ、夏休みはほとんど学校と塾の往復だったし。茉夕に会える日も少なかったけど。
俺のためにバイトまでしてくれてるなんて……。
忘れることなんて、あるわけない。
俺がどこにいて、茉夕がどこにいたって、俺の中心はいつだって茉夕なんだから。
……俺が勉強してる間に、まさか茉夕が他の男と一緒だったなんて。
”俺のためのバイト”とはいえ、妬かないわけねぇだろ。
ギュッと茉夕を引き寄せて、自分の腕の中に閉じ込める。驚いたように身じろぐ茉夕を、それでもギュッと抱きしめた。
俺の言葉にみるみる顔が赤く染まっていくのが、夜の暗闇の中でも分かる。
可愛いのはいつだって茉夕の方で、俺から簡単に余裕を奪っていく。
幸せそうに笑いながら、可愛いこと言って。完全に油断しきってる茉夕。
そんな茉夕にグイッと近づいて───。
優しく、触れるだけのキスを降らした。
真っ赤に染まって、何やら呪文を唱える茉夕を見ながら、気づけば俺の口元も緩む。
メリークリスマス。
世界一可愛い、俺の彼女。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!