第8話

(クリスマス編)
17,825
2019/09/28 04:09
朝起きたって、サンタさんが来ているような歳でもないのに、まるで子どもの頃に戻ったみたいに、今日という日が待ち遠しかった。

つい、早く目が覚めて今日一日の流れを頭の中でシミュレーションしたりして。

……早く会いてぇな、って。
そればっかり考えてた。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
メリークリスマス!
叶多くん!
いつもと同じ待ち合わせ場所に、約束の時間より少し早くやって来た茉夕。
安藤叶多
安藤叶多
ぉわっ……!
たく、もっと普通に登場しろよ
バランスを崩しながらも茉夕を受け止めて、茉夕には気付かれないように、会えた喜びを噛み締める。

今日は12月24日。
俗に言う、恋人たちのクリスマスだ。

冬休みが始まってまだ2日なのに、たった数日会っていなかっただけで、こんなにも会えた時の喜びが大きい。

……卒業したら、もっと会えない日が続くんだろうな。しかも、高校には茉夕を狙ってる男たちがいっぱいいて……あー!耐えられんのか?俺。

って、やめやめ。考えると余計に寂しくなる。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
えへへ、会いたかったです
安藤叶多
安藤叶多
なんで敬語?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……なんか、久しぶりで
ちょっと緊張しております
無駄に敬礼ポーズまでして見せる茉夕を笑いながら、愛おしさが込み上げてくる。

『会いたかった』と言った茉夕に、俺と同じだって思えたから。
安藤叶多
安藤叶多
俺も、会いたかった
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……ほ、ほんと!?
叶多くんも寂しかった?
安藤叶多
安藤叶多
って言っても……。
冬休み始まってまだ2日だしな
佐々木茉夕
佐々木茉夕
そ、それはそうだけど……!
たった2日……なんて、茉夕の前では少しでもかっこよくありたくて、照れ隠しを言って強がってしまった。

本当は昨日の夜、今日が待ちきれなくて珍しく自分から電話をかけて、『おやすみ』がなかなか言い出せなくて、余計切なくなったくせに。
〜15分後〜
佐々木茉夕
佐々木茉夕
わ〜〜〜!!!
見て!綺麗〜!!
安藤叶多
安藤叶多
子どもみたいだな
フライドチキン屋さんに並ぶ家族連れの列や、寄り添って歩く沢山の恋人たちでごった返す街の中。

目の前には大きなツリーと、それをキラキラと彩りながら光るイルミネーション。

と、それを見て子どもみたいにはしゃぐ、俺の彼女。……すげぇ可愛い。
安藤叶多
安藤叶多
こんなの、ただの装飾電灯だろ
安藤叶多
安藤叶多
って、去年の俺なら言ったと思うけど
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……え?
安藤叶多
安藤叶多
今年は、綺麗かも
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!!そ、それって
私と一緒に見てるからってことで
いいんでしょうか……!
安藤叶多
安藤叶多
だから、なんで敬語なの
チラッと横目で茉夕を確認してから、再び視線をイルミネーションへと戻す。
否定も肯定もしてないのに、茉夕はやっぱり楽しそうに笑っていて、その笑顔にまた満たされていく俺がいる。

”伝われ”と願って、繋いだ手にギュッと力を込めれば、すぐに茉夕も握り返してくれる。

これを『幸せ』って言葉以外で、なんて表現したらいいんだろう。
安藤叶多
安藤叶多
……寒い?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ううん!平気だよ!
安藤叶多
安藤叶多
じゃあ、少し歩こう
初めて会った日に、突然告白されて。
しかも、すっげぇボロボロ泣きながら。

いつもは、よく知りもしない相手なら尚更、告白なんて絶対に断るのに。

あの時の俺は、茉夕の涙を拭ってやりたいって思った。

……まさか、こんなにも好きになるなんて想像すらしてなかったけど、自分でもハッキリと自覚せざるを得ないくらい俺は茉夕が好きだ。
〜公園〜
人もまばらな夜の公園。
普段なら、この時間に人なんていないのに、さすがクリスマス。

なんて、思いながら空いてるベンチへと茉夕の手を引いて、並んで座った。
安藤叶多
安藤叶多
寒いんだろ?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え?
安藤叶多
安藤叶多
鼻、真っ赤
佐々木茉夕
佐々木茉夕
う、うそ……!
赤鼻のトナカイみたいじゃん
慌てて鼻を隠す茉夕に、つい声を出して笑えば、茉夕が驚いたように俺の顔を見てきて……
安藤叶多
安藤叶多
なに……?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くんが声出して笑ってるの
なんかレアだなって!
だから目に焼き付け───
安藤叶多
安藤叶多
なくていいから
今度は俺が、恥ずかしさから顔を隠す。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……あれ?今度は照れてる?
叶多くん、可愛い〜!
安藤叶多
安藤叶多
うるせ
緊張してるとか言って、敬語で話してたかと思えば、今度は俺を『可愛い』とか言ってからかってくるし。

本当に、茉夕には調子狂わされっぱなしだ。

いつも、バッグなんて持ち歩かない俺が、今日は珍しくボディバッグを身につけている。

その時点で、用意していることがバレてるかもしれないと思いつつ、ボディバッグからクリスマスプレゼントを取り出して、
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!?
茉夕の首元へと優しく巻いた。
安藤叶多
安藤叶多
クリスマスプレゼント
佐々木茉夕
佐々木茉夕
わ、可愛いマフラー!
……暖かい、嬉しい!
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ありがとう、叶多くん
きっと、茉夕は何をプレゼントしたって喜んでくれて、なんならプレゼントなんてしなくても『一緒にいられるだけで』と笑ってくれるだろう。

だけど───。
マフラーを巻く寸前、一瞬見えたネックレスに口元を緩ませて。上から重ねたマフラーに、……ちょっとずつ、茉夕の全部が俺でいっぱいになればいい、なんて。

茉夕と出会って、俺の中の”独占欲”ってやつが目覚めたらしい。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あのね!
私からもプレゼントがあるんだ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ジャーンッ!
はい、これ
安藤叶多
安藤叶多
開けていい?
正直、茉夕のことだからプレゼントは用意してくれてるんだろうなって……思ってた。

───だけど。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
開けて、開けて!
安藤叶多
安藤叶多
……っ、これ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
気に入ってくれた……?
もうすぐ大学生になる叶多くんに
かっこいい腕時計して欲しいなぁって
そこには、よく知ったブランドの腕時計。
クラシックな丸いフォルムに、3針のシンプルなクォーツムーブメント。色は万能なブラック。

場面を選ばずに使えそうな”それ”は、間違いなく俺の好みど真ん中で。

大学生向けくらいのブランドとはいえ、高校生の俺たちが手を出すには、躊躇われるくらいの値段はする代物だ。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
実は、サプライズしたくて
黙ってたんだけど……
夏休みにバイトしてたんだ!
安藤叶多
安藤叶多
……バイト!?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん、近所のカフェで!
同じクラスの木村くんに
夏休み限定で紹介してもらったの
全然気づかなかった。
……まぁ、夏休みはほとんど学校と塾の往復だったし。茉夕に会える日も少なかったけど。

俺のためにバイトまでしてくれてるなんて……。
安藤叶多
安藤叶多
ありがとう、すげぇ嬉しい
……毎日着けるから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん!会えない日も、これ着けて
私のこと思い出して欲しいなって
安藤叶多
安藤叶多
思い出すもなにも……
忘れることなんて、あるわけない。
俺がどこにいて、茉夕がどこにいたって、俺の中心はいつだって茉夕なんだから。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え……?
安藤叶多
安藤叶多
んーや、なんでもない
安藤叶多
安藤叶多
それより、そのバイトって
”クラスメイトの木村”も
一緒だったわけ?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……?
そりゃもちろん、木村くんの
おじさんのお店だし!
色々教えてくれて助かったよ
……俺が勉強してる間に、まさか茉夕が他の男と一緒だったなんて。

”俺のためのバイト”とはいえ、妬かないわけねぇだろ。
安藤叶多
安藤叶多
俺、茉夕のことになると
かなり心狭いかも
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……ちょ、叶多くん!?
ギュッと茉夕を引き寄せて、自分の腕の中に閉じ込める。驚いたように身じろぐ茉夕を、それでもギュッと抱きしめた。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
も、もしかして叶多くん……
木村くんにヤキモチ妬いてる?
安藤叶多
安藤叶多
……っ、ダサいから
わざわざ声に出して言うなよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ダサくなんかないよ?
……それに可愛───
安藤叶多
安藤叶多
可愛いはナシ!
男は好きな子の前では
かっこよくありたいもんだから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!
す、好きな子……!
俺の言葉にみるみる顔が赤く染まっていくのが、夜の暗闇の中でも分かる。
安藤叶多
安藤叶多
可愛い
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……も〜!
可愛いのはいつだって茉夕の方で、俺から簡単に余裕を奪っていく。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くん、大好き!
幸せそうに笑いながら、可愛いこと言って。完全に油断しきってる茉夕。

そんな茉夕にグイッと近づいて───。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!!?
安藤叶多
安藤叶多
俺も
優しく、触れるだけのキスを降らした。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
◎$♪×△¥●&?#$!
真っ赤に染まって、何やら呪文を唱える茉夕を見ながら、気づけば俺の口元も緩む。

メリークリスマス。
世界一可愛い、俺の彼女。

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