見つける度に嬉しくて、ドキドキときめいて、大好きすぎて眩しかった。
そんな、安藤先輩の彼女になったあの日から、早いもので1週間が過ぎた。
私と先輩の関係はと言うと、ラブラブ……には程遠く。言ってしまえば、付き合う前とあまり変わりはないような。
大きく違うことといえば、先輩が私のことを「彼女」だと認識していることくらい。
由紀ちゃんには「一緒に帰りたい!とか、もっとワガママ言いなよ」なんて言われたけど。
でも「めんどいの嫌いだよ」って言ってたし。
受験生の先輩にとって"彼女"って存在自体が"めんどいの"に値するだろうなぁって思うと
付き合ってもらってるだけで、やっぱり十分幸せだって思わなくちゃいけない。
呼ばれて振り向けば、先輩と先輩のお友だちが、これから体育なのかジャージ姿で立っていた。
か、可愛いって……!
お世辞って分かってても、やっぱり嬉しいな。
あんまり言われ慣れてないからソワソワ落ち着かないけど。
口元はだらしなく緩んじゃう。
……先輩、私と付き合ってること周りに言ってないんだ。今、ちょっとショックかも。
でも、こんなことで凹んでられないよね。ここは先輩に合わせていないって言おう。
そう思って口を開いたとき、
先輩が、ため息混じりに私を引き寄せた。
───ドキッ
驚く友達に目もくれず、短く私との関係を肯定した先輩は、私の頭をポンポンと数回撫でてから体育館へ入っていく。
や、やばい……!なに今の。
まだドキドキしてる。
小さく振り向いた先輩の顔は、ほんのり赤くて。もしかして、照れてる?なんて。
あぁ、どうしよう。
やっぱり私、幸せすぎる。
放課後。
いつも通りの帰り道なのに、いつもとは違う景色に見えるのは隣に先輩がいるから。
こうして並んで歩くのも初めてで、自分から一緒に帰りたいなんて言っておきながら、もういっそ早く家に着かないかなって思っちゃうくらいドキドキしてる。
だけど、先輩との時間がずーっと続けば良いとも思ってて、乙女心は複雑だ。
先輩が優しく笑った気配がして、その顔見たさに伏し目がちだった視線を上げれば
───バチッと視線が絡んだ。
……無、無理!
先輩に見つめられてる、溶ける……!!
ニッと意地悪く口角を上げて、「行くぞ」と歩き出す先輩。
そんな意地悪な顔もするんですか。
……どんな表情も、全部かっこよくて、いちいち心臓に悪い。
私ばっかりドキドキさせられて
ずるいです、先輩。
映画館に着いたのはちょうど、観る予定のアクションが始まる15分くらい前で。
人混みから庇うように『はぐれんなよ』と差し出された先輩の手をドキドキしながら握りしめて、
ポップコーンとジュースを買って席に着いた頃には、5分前になっていた。
デートなんて初めてで、どうしていいか戸惑う私とは反対に、慣れた様子でリードしてくれる先輩。
何をやらせてもソツなくこなして、そんなところもまたカッコイイなって思うけど。
今までどれだけの女の子と映画観たのかな……って、ちょっぴり気になる。
照明が落とされて、渋々前を向いて映画に集中しようと試みるけれど。
こんなに座席って近かったっけ!?
少し動いただけで、先輩の肩に触れてしまいそうな距離感に息を呑む。
……全然!映画になんか集中できないよ!!
2時間後
集中出来ないと思っていたのに、気づけば先輩との距離も忘れて物語にのめり込んでいて、
観終えた今、私の胸は感動でいっぱい。
映画中の私の様子を思い出したらしい先輩が、堪えきれないとばかりに吹き出すから、私は恥ずかしくて顔から火がでそう。
もっと可愛く映画観れるようになろう……。
少し照れたように笑う先輩に、また心臓を鷲掴みにされた気分。
嬉しくて、嬉しくて……
単純な私はもうすっかり、可愛く映画観れなくてもいいや!とか思ってる。
私のできる、目一杯の笑顔でそう告げれば、先輩の手がふわりと私の頭を撫でた。
心臓がうるさいくらいに暴れて、
先輩が触れたところが熱を持って、ジンジンと疼く。
トクン、トクン、と心臓が脈打つたびに、先輩への好きが溢れていく感覚。
私、先輩の彼女なんだ……って、今改めて実感できました。
先輩、大好きです!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!