第2話

( デート編 )
30,085
2019/08/17 04:09
見つける度に嬉しくて、ドキドキときめいて、大好きすぎて眩しかった。


そんな、安藤先輩の彼女になったあの日から、早いもので1週間が過ぎた。

私と先輩の関係はと言うと、ラブラブ……には程遠く。言ってしまえば、付き合う前とあまり変わりはないような。


大きく違うことといえば、先輩が私のことを「彼女」だと認識していることくらい。

由紀ちゃんには「一緒に帰りたい!とか、もっとワガママ言いなよ」なんて言われたけど。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……一緒に帰りたい、かぁ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
確かに、先輩と青春したい!
って思ったから告白したんだけど
でも「めんどいの嫌いだよ」って言ってたし。

受験生の先輩にとって"彼女"って存在自体が"めんどいの"に値するだろうなぁって思うと


付き合ってもらってるだけで、やっぱり十分幸せだって思わなくちゃいけない。
安藤叶多
安藤叶多
……佐々木?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
っ、先輩……?
安藤叶多
安藤叶多
何してんの、こんなとこで
呼ばれて振り向けば、先輩と先輩のお友だちが、これから体育なのかジャージ姿で立っていた。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ、私は担任に頼まれて資料室に……
先輩はこれから体育ですか?
安藤叶多
安藤叶多
ん、今日はバスケ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
じゃあ、今日は窓から見えないなぁ
安藤叶多
安藤叶多
なに、いつも窓から見てたの?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
っ、あ!いえ……はい。
サッカーしてる先輩、見てました
安藤叶多
安藤叶多
……なんだそれ、恥ずっ
佐藤
おい、叶多〜!
いつの間にこんな可愛い子と
仲良くなったんだよ!
か、可愛いって……!

お世辞って分かってても、やっぱり嬉しいな。
あんまり言われ慣れてないからソワソワ落ち着かないけど。


口元はだらしなく緩んじゃう。
佐藤
えっと、佐々木さんだっけ?
彼氏とかいるの?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え……!?あ〜えっと、
……先輩、私と付き合ってること周りに言ってないんだ。今、ちょっとショックかも。

でも、こんなことで凹んでられないよね。ここは先輩に合わせていないって言おう。


そう思って口を開いたとき、
安藤叶多
安藤叶多
いるよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
わっ、
先輩が、ため息混じりに私を引き寄せた。


───ドキッ
佐藤
……え、もしかして
叶多の彼女ってこと!?
安藤叶多
安藤叶多
ん。……いいから、早く行くぞ
佐々木またな
佐藤
うっそ、マジかよ!
驚く友達に目もくれず、短く私との関係を肯定した先輩は、私の頭をポンポンと数回撫でてから体育館へ入っていく。


や、やばい……!なに今の。
まだドキドキしてる。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
せ、先輩……!
小さく振り向いた先輩の顔は、ほんのり赤くて。もしかして、照れてる?なんて。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あの、今日!
一緒に帰りたい……です
安藤叶多
安藤叶多
……ん。
放課後、教室まで迎えに行く
あぁ、どうしよう。
やっぱり私、幸せすぎる。
放課後。


いつも通りの帰り道なのに、いつもとは違う景色に見えるのは隣に先輩がいるから。


こうして並んで歩くのも初めてで、自分から一緒に帰りたいなんて言っておきながら、もういっそ早く家に着かないかなって思っちゃうくらいドキドキしてる。


だけど、先輩との時間がずーっと続けば良いとも思ってて、乙女心は複雑だ。
安藤叶多
安藤叶多
なんか話せよ。
静かすぎて調子狂う
佐々木茉夕
佐々木茉夕
えっ……あ!その、
先輩とこうして並んで歩いてるのが
まだ夢みたいで……ドキドキします
佐々木茉夕
佐々木茉夕
なんか、いざこうして隣を歩くと
先輩かっこよすぎて直視できないし
ソワソワして、何話そうって……
安藤叶多
安藤叶多
フッ……ほんと、変なやつ
先輩が優しく笑った気配がして、その顔見たさに伏し目がちだった視線を上げれば

───バチッと視線が絡んだ。


……無、無理!
先輩に見つめられてる、溶ける……!!
安藤叶多
安藤叶多
これ、もらったんだけど
……今日これからヒマ?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え?……それ、
安藤叶多
安藤叶多
映画のチケット
アクションだけど
佐々木茉夕
佐々木茉夕
暇です!!行きたい……あ、
でも先輩、いいんですか?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ほら、めんどいの嫌いって……
それに、受験前の大事な時期ですし
安藤叶多
安藤叶多
あんな泣きながら告っといて
今さら何気にしてんだよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!そ、それは忘れてください
安藤叶多
安藤叶多
泣きながらの告白とか初めてで
忘れらんねぇよ
ニッと意地悪く口角を上げて、「行くぞ」と歩き出す先輩。

そんな意地悪な顔もするんですか。
……どんな表情も、全部かっこよくて、いちいち心臓に悪い。

私ばっかりドキドキさせられて
ずるいです、先輩。
映画館に着いたのはちょうど、観る予定のアクションが始まる15分くらい前で。


人混みから庇うように『はぐれんなよ』と差し出された先輩の手をドキドキしながら握りしめて、


ポップコーンとジュースを買って席に着いた頃には、5分前になっていた。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
先輩、あの……お金払いますから!
安藤叶多
安藤叶多
いいって。
こういう時は男が出すもんだから
安藤叶多
安藤叶多
ほら、始まる
デートなんて初めてで、どうしていいか戸惑う私とは反対に、慣れた様子でリードしてくれる先輩。

何をやらせてもソツなくこなして、そんなところもまたカッコイイなって思うけど。

今までどれだけの女の子と映画観たのかな……って、ちょっぴり気になる。


照明が落とされて、渋々前を向いて映画に集中しようと試みるけれど。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
っ、
こんなに座席って近かったっけ!?
少し動いただけで、先輩の肩に触れてしまいそうな距離感に息を呑む。

……全然!映画になんか集中できないよ!!
2時間後
集中出来ないと思っていたのに、気づけば先輩との距離も忘れて物語にのめり込んでいて、

観終えた今、私の胸は感動でいっぱい。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
先輩、すっごく面白かったですね!
アクションがキレッキレで、
私もあれくらい動けたらなぁ〜
安藤叶多
安藤叶多
隣ですげぇ応援してたよな?
『イケ!』とか『頑張れ!』とか
聞こえるたび、笑いこらえんの必死
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うそ……!
私、静かに応援してたのに
……声に出てましたか!?
安藤叶多
安藤叶多
ブッ……ハハッ
思い出すとまじウケる
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ、先輩!笑いましたね!
……もぉ〜、本当に忘れてください
映画中の私の様子を思い出したらしい先輩が、堪えきれないとばかりに吹き出すから、私は恥ずかしくて顔から火がでそう。

もっと可愛く映画観れるようになろう……。
安藤叶多
安藤叶多
受験前の大事な時期で
正直、全然余裕ない
安藤叶多
安藤叶多
けど、おかげで楽しかった
最近受験のことばっかだったから
……良い息抜きになった
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……先輩、それ、
ほんとですか!?
安藤叶多
安藤叶多
こんなこと、わざわざ嘘つかねぇだろ
少し照れたように笑う先輩に、また心臓を鷲掴みにされた気分。

嬉しくて、嬉しくて……
単純な私はもうすっかり、可愛く映画観れなくてもいいや!とか思ってる。
安藤叶多
安藤叶多
受験勉強、余計がんばれそう
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……私の方こそ
先輩の隣はドキドキするけど
すっごく楽しくて幸せでした!
佐々木茉夕
佐々木茉夕
先輩のこと1番に応援してます!
私のできる、目一杯の笑顔でそう告げれば、先輩の手がふわりと私の頭を撫でた。

心臓がうるさいくらいに暴れて、

先輩が触れたところが熱を持って、ジンジンと疼く。


トクン、トクン、と心臓が脈打つたびに、先輩への好きが溢れていく感覚。

私、先輩の彼女なんだ……って、今改めて実感できました。


先輩、大好きです!

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