12月31日。
今日は1年の最後の日。
ついこの間、新年を迎えたばかりだと思っていたのに……1年ってあっという間だなぁと、しみじみ時間の流れの早さを感じる。
”お風呂に入って綺麗さっぱり!これで思い残すことなく新年を迎えられる!”と思っていたところに、スマホの着信音が鳴り響いた。
液晶画面に表示された【叶多くん】の文字に、心臓がドキッと反応する。
ふと、時計に目をやれば22時を少し過ぎた頃。
あの幸せだったクリスマスの夜が、今年最後の叶多くんに会える日だとばかり思っていたから。
こうして誘ってもらえて、すごく嬉しい。
叶多くんとのキスを思い出すだけで勝手に火照る身体を自分でギュッと抱きしめて、これから叶多くんに会える喜びに顔が緩む。
どうしよう……!叶多くんの顔、直視できる気がしないよ〜!!
〜神社〜
既にごった返す人の群れを掻き分けて、叶多くんが白い息を吐きながら私を呼んだ。
全然普通なんかじゃない。
当たり前みたいに私の家から近い神社を選んでくれて、無条件に甘やかしてくれる叶多くんの優しさが、じわりと私の体を温める。
叶多くんの糖度が日を増す事に上がっていく気がして、私は赤くなった顔を必死に隠す。
そんな私の反応を口角を上げて見ている叶多くんは、わざとやっているに違いなくて、今だって絶対に私の反応を見て楽しんでる。
あーもう、まんまと赤くなってちゃ叶多くんの思うツボだよ。
〜30分後〜
神社にいるみんなが、一斉にカウントダウンを始める。合わせて私も心の中でゆっくりとカウントダウンする。
───5!
今年は、本当に色んなことがあったな。
高校受験をして、中学を卒業して。
高校生になって、キラキラしてる叶多くんに片想いが始まった……。
───4!
まさか憧れていた叶多くんに、自分から告白するなんて夢にも思わなかったし。ましてや、OKをもらって付き合えるなんて……。
今、あの頃からは想像も出来ないくらい幸せな毎日を送っていて、その幸せは全部、隣にいる叶多くんにもらったものだ。
───3!
───ゴーン、ゴーン
見つめ合いながら最後の挨拶をした私たちは、鳴り響く除夜の鐘に目を見開く。
見つめあって終えた1年の終わり。
そして、見つめあって迎えた新しい1年。
1番に『おめでとう』が言えるこの距離を、今年も大切にしていこうと思った。
冗談を言いながら、おみくじのある神社の社務所前へ向かった。
セルフサービス式のおみくじ、初穂料を納めた叶多くんがおみくじ筒を振れば、ガラガラと音が鳴って、おみくじ棒が1本飛び出した。
ホッとしたように笑う叶多くんを見て、私の方がホッとしてしまう。確かに、おみくじは気休めにしかならないかもしれないけど、信じるものは救われるんだから。
きっと、叶多くんは大丈夫。
───ガラガラッ
乾いた音がして、おみくじ棒が飛び出す。
祈るように番号を確認すれば……。
「ジャン!」と叶多くんに向けて広げたおみくじには、大きな文字で【大吉】と書いてある。
そんなの言われなくても捧げちゃうよ。
叶多くん一色、叶多くんしか見えない!
そう言えば、叶多くんの【恋愛】は何が書いてあったんだろう?
クールだったり、甘々だったり、ツンデレだったり、素直だったり。忙しい叶多くんに相変わらず翻弄されっぱなしだ。
〜15分後〜
あれから、ついに2週間後に入試を控えた叶多くんの合格祈願をした。
祈るように願うように、ただひたすら神様にお願いする私の隣で『眉間にシワよってるし』と、叶多くんが吹き出した。
……すごい形相で手を合わせていたらしい。
お互いに、お互いのお守りを買い合いっこしたのは良いけれど。
私をからかってククッと喉を鳴らす叶多くんに頬を膨らませれば、ブニッと頬をつままれてなんとも間抜けな顔になる。
やっぱり、甘々な叶多くんには到底勝てない。
一瞬で全部忘れちゃうくらい、叶多くんの『可愛い』が嬉しすぎて。
笑うのは必死に堪えてるって顔で私を見る叶多くんに、もう!と思う。
私は本当に心配してるのに……!!
叶多くんの視線の先を追えば、たくさんの人が群がる中に絵馬を見つけてテンションが上がった。
ぴょんぴょん飛び跳ねる私に「だと思った」とだけ告げて、手を引いて歩き出す叶多くんが、好きすぎて苦しい。
〜5分後〜
嫌そうな顔をしながらも、私の掛け声に合わせて絵馬を見せてくれる。
お互いにお互いの絵馬を読み上げて内容を確認した後、叶多くんの目標の期限の短さに思わず突っ込んでしまった。
そこは嘘でも『ずっと』とか言って欲しかったから。
だけど、そんな私にベッと小さく舌を出した叶多くんが真っ直ぐ私を見つめる。
つまり……、来年も再来年もその先もずっと、私と迎える新年を願ってくれるってこと?
叶多くんの未来に、私がいる。
それがこんなにも嬉しくて、舞い上がる。
叶多くんはもうすぐ卒業だけど、ずっとずっと変わらない私たちでいよう。
来年も再来年も、その先もずっと、手を取り合って、1年の終わりと新しい1年の始まりを叶多くんの隣で迎えたい。
叶多くんにとって、私もそんな存在であり続けられますように。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!