第9話

(大晦日〜初詣編)
16,226
2020/06/15 10:36
12月31日。
今日は1年の最後の日。

ついこの間、新年を迎えたばかりだと思っていたのに……1年ってあっという間だなぁと、しみじみ時間の流れの早さを感じる。

”お風呂に入って綺麗さっぱり!これで思い残すことなく新年を迎えられる!”と思っていたところに、スマホの着信音が鳴り響いた。

液晶画面に表示された【叶多くん】の文字に、心臓がドキッと反応する。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
も、もしもし、叶多くん?
安藤叶多
安藤叶多
遅くにごめん。
もう、寝るとこだった?
ふと、時計に目をやれば22時を少し過ぎた頃。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ううん!せっかくだし、
新年迎えてから寝ようかな〜って
安藤叶多
安藤叶多
……じゃあさ、
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん?
安藤叶多
安藤叶多
今日、これから会える?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え!?
安藤叶多
安藤叶多
一緒に年越ししよう
佐々木茉夕
佐々木茉夕
っ、する!!!
あの幸せだったクリスマスの夜が、今年最後の叶多くんに会える日だとばかり思っていたから。

こうして誘ってもらえて、すごく嬉しい。

叶多くんとのキスを思い出すだけで勝手に火照る身体を自分でギュッと抱きしめて、これから叶多くんに会える喜びに顔が緩む。

どうしよう……!叶多くんの顔、直視できる気がしないよ〜!!
〜神社〜
安藤叶多
安藤叶多
茉夕!
既にごった返す人の群れを掻き分けて、叶多くんが白い息を吐きながら私を呼んだ。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くん!寒かったでしょ?
うちの近くまで来てくれてありがとう
安藤叶多
安藤叶多
俺が誘ったんだし、
これくらい普通だから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……ありがとう!
誘ってくれてすごい嬉しい
全然普通なんかじゃない。

当たり前みたいに私の家から近い神社を選んでくれて、無条件に甘やかしてくれる叶多くんの優しさが、じわりと私の体を温める。
安藤叶多
安藤叶多
1年の終わりも、新しい年の始まりも
茉夕と一緒にいたかったから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
〜〜っ!!
叶多くんの糖度が日を増す事に上がっていく気がして、私は赤くなった顔を必死に隠す。

そんな私の反応を口角を上げて見ている叶多くんは、わざとやっているに違いなくて、今だって絶対に私の反応を見て楽しんでる。

あーもう、まんまと赤くなってちゃ叶多くんの思うツボだよ。
〜30分後〜

神社にいるみんなが、一斉にカウントダウンを始める。合わせて私も心の中でゆっくりとカウントダウンする。


───5!


今年は、本当に色んなことがあったな。
高校受験をして、中学を卒業して。
高校生になって、キラキラしてる叶多くんに片想いが始まった……。


───4!


まさか憧れていた叶多くんに、自分から告白するなんて夢にも思わなかったし。ましてや、OKをもらって付き合えるなんて……。

今、あの頃からは想像も出来ないくらい幸せな毎日を送っていて、その幸せは全部、隣にいる叶多くんにもらったものだ。


───3!
安藤叶多
安藤叶多
今年も、茉夕のおかげで
いい年になった、サンキュ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
そんなの、私の方こそ……!
ありがとう叶多くん!

───ゴーン、ゴーン


見つめ合いながら最後の挨拶をした私たちは、鳴り響く除夜の鐘に目を見開く。
安藤叶多
安藤叶多
……明けましておめでとう
今年もよろしくな
佐々木茉夕
佐々木茉夕
フフッ……
明けましておめでとうございます!
こちらこそ、今年もよろしくね
見つめあって終えた1年の終わり。
そして、見つめあって迎えた新しい1年。

1番に『おめでとう』が言えるこの距離を、今年も大切にしていこうと思った。
安藤叶多
安藤叶多
んじゃ……せっかくだし
おみくじでも引いてくるか
佐々木茉夕
佐々木茉夕
引きたい!
あ……でも、大凶だったら泣く
安藤叶多
安藤叶多
出たら笑ってやるよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え、やだよ〜!
絶対に大吉引いてやる〜!
冗談を言いながら、おみくじのある神社の社務所前へ向かった。
セルフサービス式のおみくじ、初穂料を納めた叶多くんがおみくじ筒を振れば、ガラガラと音が鳴って、おみくじ棒が1本飛び出した。
安藤叶多
安藤叶多
じゃあ、俺から
佐々木茉夕
佐々木茉夕
何番!?
安藤叶多
安藤叶多
8番だって……これか
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……どう?大凶!?
安藤叶多
安藤叶多
……ブッ
そう簡単に大凶なんて出ねぇよ
安藤叶多
安藤叶多
……あ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え……!?
や、やっぱり大凶!?
安藤叶多
安藤叶多
んーや、大吉
学問、安心して勉学せよ
争事、たやすく勝つ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ほ、ほんと!?よかった〜!
これで受験も安心だ……
安藤叶多
安藤叶多
気休めでしかねぇけど。
……なんか、気合い入った
ホッとしたように笑う叶多くんを見て、私の方がホッとしてしまう。確かに、おみくじは気休めにしかならないかもしれないけど、信じるものは救われるんだから。

きっと、叶多くんは大丈夫。
安藤叶多
安藤叶多
ほら、茉夕も引けよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
う、うん……!
───ガラガラッ

乾いた音がして、おみくじ棒が飛び出す。
祈るように番号を確認すれば……。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
65番だって……これかな?
安藤叶多
安藤叶多
どう?大凶?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ちょ、不吉なこと言わないで!
……あ、見て!見て見て!
「ジャン!」と叶多くんに向けて広げたおみくじには、大きな文字で【大吉】と書いてある。
安藤叶多
安藤叶多
まじ?
2人揃って新年早々ついてるな
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん!
恋愛、愛情を捧げよ……か
そんなの言われなくても捧げちゃうよ。
叶多くん一色、叶多くんしか見えない!

そう言えば、叶多くんの【恋愛】は何が書いてあったんだろう?
安藤叶多
安藤叶多
……なんだよ。
俺のが気になる?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
なんて書いてた?恋愛……!
安藤叶多
安藤叶多
誠意を尽くせ、ってさ。
……言われなくても尽くすよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
わ、私も!
愛情を捧げ倒すからね!
安藤叶多
安藤叶多
倒されても困るけど……
ま、受け止めてやんなくもない
佐々木茉夕
佐々木茉夕
なにそれ〜!
クールだったり、甘々だったり、ツンデレだったり、素直だったり。忙しい叶多くんに相変わらず翻弄されっぱなしだ。
〜15分後〜

あれから、ついに2週間後に入試を控えた叶多くんの合格祈願をした。

祈るように願うように、ただひたすら神様にお願いする私の隣で『眉間にシワよってるし』と、叶多くんが吹き出した。
……すごい形相で手を合わせていたらしい。
安藤叶多
安藤叶多
ん、これ茉夕の。
アホが治るお守り
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え!?
アホが治るお守りなんてあるの!?
安藤叶多
安藤叶多
……ブッ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あー!!騙したでしょ!?
安藤叶多
安藤叶多
普通、騙されねぇだろ
お互いに、お互いのお守りを買い合いっこしたのは良いけれど。

私をからかってククッと喉を鳴らす叶多くんに頬を膨らませれば、ブニッと頬をつままれてなんとも間抜けな顔になる。
安藤叶多
安藤叶多
んな顔しても、可愛いだけだから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!!
やっぱり、甘々な叶多くんには到底勝てない。
一瞬で全部忘れちゃうくらい、叶多くんの『可愛い』が嬉しすぎて。
安藤叶多
安藤叶多
で?これはなんのお守り?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
叶多くんのは
大学で微塵もモテないお守り
安藤叶多
安藤叶多
ブッ……
待って、マジで可愛すぎ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
笑いごとじゃないよ
……きれいなお姉さんの誘惑に
負けちゃダメだからね!!
安藤叶多
安藤叶多
ん、頑張る
笑うのは必死に堪えてるって顔で私を見る叶多くんに、もう!と思う。

私は本当に心配してるのに……!!
安藤叶多
安藤叶多
あ、茉夕が好きそうなのあるじゃん
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……え?
安藤叶多
安藤叶多
ほら、あれ
叶多くんの視線の先を追えば、たくさんの人が群がる中に絵馬を見つけてテンションが上がった。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うわ!書く!書きたい!
ぴょんぴょん飛び跳ねる私に「だと思った」とだけ告げて、手を引いて歩き出す叶多くんが、好きすぎて苦しい。
〜5分後〜
佐々木茉夕
佐々木茉夕
書けた!
安藤叶多
安藤叶多
俺も書いた
佐々木茉夕
佐々木茉夕
じゃあ、せーの!で見せ合おう?
安藤叶多
安藤叶多
は?見せんの?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
当たり前!気になるもん。
叶多くんがなんて書いたか。
行くよ?せーの!
嫌そうな顔をしながらも、私の掛け声に合わせて絵馬を見せてくれる。
安藤叶多
安藤叶多
【来年も茉夕と新年を迎える】
佐々木茉夕
佐々木茉夕
【ずっと叶多くんの
隣にいられますように】
佐々木茉夕
佐々木茉夕
これじゃ願いごとじゃなくて目標だよ!
……しかも、来年って期限短くない?
お互いにお互いの絵馬を読み上げて内容を確認した後、叶多くんの目標の期限の短さに思わず突っ込んでしまった。

そこは嘘でも『ずっと』とか言って欲しかったから。

だけど、そんな私にベッと小さく舌を出した叶多くんが真っ直ぐ私を見つめる。
安藤叶多
安藤叶多
どうせ毎年同じこと願うんだから
いいんだよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……毎年……?
つまり……、来年も再来年もその先もずっと、私と迎える新年を願ってくれるってこと?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……叶多くんっ!
安藤叶多
安藤叶多
ぉあっ、だから急に抱きつくなよ
危ねぇから
叶多くんの未来に、私がいる。
それがこんなにも嬉しくて、舞い上がる。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
へへ、私たちバカップルだね
安藤叶多
安藤叶多
……おかげさまで
叶多くんはもうすぐ卒業だけど、ずっとずっと変わらない私たちでいよう。

来年も再来年も、その先もずっと、手を取り合って、1年の終わりと新しい1年の始まりを叶多くんの隣で迎えたい。

叶多くんにとって、私もそんな存在であり続けられますように。

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