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第1話

( 告白編 )
84,330
2019/08/09 23:11 更新
勉強は苦手。



先生が呪文のように唱える教科書の文字たちを、右から左に受け流しながら


私、佐々木茉夕ササキマユは、グラウンドで体育の授業中である先輩を目で追う。


サッカーボールを追いかけて汗を流す先輩が、キラキラ輝いて見える。ちょうど、私の席からよく見えるグラウンドが私の癒し。


何を隠そう、入学式の日に一目惚れをした。
たまたま廊下ですれ違っただけなのに、その一瞬で私の心、ぜーんぶ持ってかれてしまったような衝撃が走って、


単純に”かっこいい”って、胸がときめいた。


それから、よく校内でその人のことを見かけるようになって。その人が3年生の安藤叶多アンドウカナタ先輩だって知るのにそう時間はかからなかった。



かなりのクール男子で、口数も少なくて、女の子にもあまり興味がないとか。


安藤先輩のクールさを前に、告白して儚く散った女子は数知れず。

おまけに3年生はこれから、進路に向けて大忙し。


1年の私なんかがでしゃばったところで、到底、手の届かない人なのだ。
───キーンコーンカーンコーン
佐々木茉夕
佐々木茉夕
由紀ちゃん、ジュース買ってくる〜
呪文ばかりの授業は、先輩を見ていたら一瞬で終わってしまった。


教室の入口で親友の由紀ちゃんにそれだけ叫べば、まだ道具を片付けていた由紀ちゃんが「ほーい」と気の抜けた返事をした。


由紀ちゃんはいいなぁ。
いつも学年トップ3だもん。


私なんてノートはいつもなんとか全部取ってるけど。……内容はもちろん、ちんぷんかんぷん。


これは夏休み前のテスト、いよいよやばいかもしれない。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
今日はミルクティにしようかな〜
佐々木茉夕
佐々木茉夕
でも炭酸も捨てがたいような……
生徒玄関にある自販機までもう少し。
独り言を零しながら自販機に向かう私の足は



───ドキッ



自販機の前に、良く知る後ろ姿を見つけて、急に動かなくなった。


片足に重心をかけて、ややダルそうに自販機と向かい合うジャージ姿の安藤先輩。


……体育終わりに飲み物買いに来たんだ。
思いがけない遭遇すぎて、胸がギューって苦しい。こんなに近くに先輩がいる。

そう思うと、緊張して余計に喉が渇いていく。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ、
安藤叶多
安藤叶多
……?
先輩の指がミルクティのボタンを押した瞬間、


”先輩も、ミルクティ飲むんだ”


そんな気持ちから思わず大きめの声が漏れて、私の声に先輩が不思議そうに振り返った。



絡む視線。


乱れる呼吸。


高鳴る鼓動。


あぁ……もう、そんな真っ直ぐ見つめられたら私、過呼吸で死にますから!!
安藤叶多
安藤叶多
あー、これ?
自販機からミルクティを取り出しながら、私に問いかける先輩。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え……あ、いや!
安藤叶多
安藤叶多
いいよ、やる。
飲みたかったんだろ?
ちょうどこれが最後だったっぽいし
そんな先輩の声に自販機へと目をやれば、確かにミルクティのボタンは”売り切れ”と赤いランプが光っている。


売り切れだと理解した途端、さっきまで炭酸も捨てがたいとか思ってたのが嘘みたいにミルクティが飲みたい衝動に駆られる。


だけど、
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ……!いいんです!
違うの買いますから
先輩からミルクティをもらうなんて、難易度が高すぎて私にはできるわけがない。


先輩からもらったミルクティなんて、もったいなくて飲めやしないもの。
安藤叶多
安藤叶多
いいって、俺こっちにする
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ……
私の話なんて聞いてないらしい先輩は、再び自販機にお金を入れて、何やらピッとボタンを押した。


───ガコン、と音を立てて飛び出すジュース。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……コーラ
安藤叶多
安藤叶多
炭酸も捨てがたいと思ってたし
佐々木茉夕
佐々木茉夕
っ、
そう言ってフッと笑った先輩に、ズキュンと胸が音を立てて射抜かれる。


ミルクティか炭酸。
先輩も、同じこと思ってたってことかな。


……だとしたら、すごくすごく嬉しい。
安藤叶多
安藤叶多
だから、ほら。
ミルクティやるよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ、ありがとうございます……!
すれ違い様に渡されたミルクティのペットボトルをギュッと握りしめて、


すたすたと教室へ向かっていく先輩の後ろ姿を見つめる。


……もう、先輩とこんなに近くにいることなんてないかもしれない。

もう、先輩とこうして話すことなんてないかもしれない。


遠くからひっそり見てるだけでいいって思ってたのに、いざこうして話してしまうと欲張りになる。


華の高校生活には限りがあって、ましてや先輩はもうすぐ卒業で。


……できることなら私は、先輩と一緒に青春を謳歌したい。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ、あの……!安藤先輩!
安藤叶多
安藤叶多
……?
安藤叶多
安藤叶多
俺のこと知ってんの?
勢い任せで名前を呼んで、振り返った先輩の驚いた顔に”しまった”と思う。


思わず呼び止めちゃったけど……


この後どうすればいいのよ。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……あの、私!
安藤叶多
安藤叶多
ん?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
安藤先輩のこと……
実は前から知ってました
安藤叶多
安藤叶多
……話したことあるっけ?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
いえ、あの……
もうすぐ夏休みで、先輩は進路に向けて追い込みが始まる時期。

……こんな時期に告白するなんて、きっと迷惑だろうな。


ましてや、私みたいな地味なのに告白されたら先輩、困るだろうし。


大学生になったら可愛い子も、綺麗な子も沢山いるだろうし、私なんかじゃ到底勝てっこないのは分かってる。


───けど。


こんなにも真っ直ぐ先輩だけに向けられたこの気持ちを、先輩に伝えないまま、胸の奥底にしまい込んで後悔しない?


このまま何もしないで、先輩に会えなくなっちゃうなんて……そんなの。


……そんなの、私はヤダ!!
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ずっと、ずっと好きでした……
安藤叶多
安藤叶多
え……?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
つきあってくださいぃぃぃ
安藤叶多
安藤叶多
は?ちょ、なんで泣きそうなんだよ……
勝手に好きになって。

ひっそり片思いするって決めて。

だけど、会えなくなるのは嫌だなって

やっぱり自分の気持ち、伝えたいって

感情が高ぶった末に……半泣き。



こんな状態で、大好きな先輩に告白をするなんて、最悪だ。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うわ、もう……なにこれ
すみません、困らせたいわけじゃなくて
勢い任せで告白してしまったことで、今度は急に不安が襲う。

目の前には驚いたように目を見開く先輩。


先輩、なんて思ったかな?
……なんて言われるんだろう。

もしかしたら、引かれたかも。


考え出したらキリがなくて、


目からはポロポロ涙が零れていく。
拭っても拭っても……だめだ、止まらない。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っうぅ、先輩、やっぱり今の
安藤叶多
安藤叶多
いいよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……え、いいよって
安藤叶多
安藤叶多
でも俺、めんどいの嫌いだよ
安藤叶多
安藤叶多
それでもいいわけ?
夢……?

先輩が、クールでいろんな子の告白をバッサリ断ってしまうって噂の……あの安藤先輩が。


今、確かに『いいよ』って言った。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
いい!
佐々木茉夕
佐々木茉夕
いいに決まってるじゃないですか!
先輩とつきあえるなら
安藤叶多
安藤叶多
ふっ……変なやつ
安藤叶多
安藤叶多
名前は?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ、えっと、1年の佐々木茉夕です
安藤叶多
安藤叶多
佐々木茉夕……忘れそう
佐々木茉夕
佐々木茉夕
えぇ!!?
安藤叶多
安藤叶多
嘘だよ。
ま、これからよろしく
そう言って笑った先輩にじわり、じわりと実感が湧いてくる。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
よ、よろしくお願いします!!!
今日から私、大好きな安藤先輩の彼女なんだ!

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