第7話

(誕生日編)
18,301
2020/03/12 11:42
風がやけに冷たく感じる、11月も中旬に差し掛かった今日この頃。

叶多くんはいよいよ、受験勉強が本格化して、放課後に苦手教科の個別講習を受けたり、塾へ通ったりと一緒に帰れないことの方が多くなった。

だから今日、こうして並んで帰るのは、なんだかすごく久しぶりだ。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
どう?
受験勉強は順調?
安藤叶多
安藤叶多
んー。
今できる最大限のことはしてるつもり
佐々木茉夕
佐々木茉夕
そっか。
……受験まであと2ヶ月か〜
私の方が緊張してきた……!
安藤叶多
安藤叶多
なんでだよ
フッと優しく笑った叶多くんに、付き合って4ヶ月が経とうとしている今も、こんなにもときめいてしまう。

あぁ、もう……好きすぎだろ、私!

叶多くんの横顔を盗み見て、目が合いそうになったところで思わずパッと逸らした。
安藤叶多
安藤叶多
……ん?なに?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
えっ、あ……いや!
なんでもないよ
実は今週の土曜日、11月17日は私の16歳の誕生日なのだ。

叶多くんと付き合って初めての誕生日。
なのに、よりによって土曜日。

……叶多くんと会えないじゃん!と、カレンダーを見て落ち込んだのは、もうかなり前の話だ。
安藤叶多
安藤叶多
なんだよ?
言いたいことあるなら聞くけど
1月に受験を控えている叶多くんは、勉強のラストスパートで。休みの日だって、図書館や近所のファミレスで勉強を頑張っていることは知っている。

せっかくの誕生日だし、会いたいなって、おめでとうって言って欲しいなって……そんな気持ちは確かにあるけれど。

受験を控えた大事な時に、わざわざ誕生日をアピールして変に気を遣わせるのは嫌だなぁとも思う。

結果、誕生日だってことすら伝えられないまま誕生日まで残すところ3日になってしまった。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ううん……!
相変わらず叶多くんかっこいいなって
ちょっと見惚れてただけ
安藤叶多
安藤叶多
あっそ……
私の言葉に、ほんの少しだけ照れたように顔を背けた叶多くん。

ほんのり頬が赤い。可愛いな。
安藤叶多
安藤叶多
……俺も、勉強のしすぎか
茉夕がすげぇ可愛く見える
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……っ!
安藤叶多
安藤叶多
疲れてんのかな
佐々木茉夕
佐々木茉夕
な、なんでそうなるの?
そこは素直に”可愛い”でいいのにぃ
意地悪!と頬を膨らませれば、叶多くんの口元はまた楽しそうに弧を描く。

……もう、ドキドキさせられっぱなしだ。
安藤叶多
安藤叶多
でも、勉強ばっかで
疲れてるのは本当だし
安藤叶多
安藤叶多
俺の息抜きに付き合ってよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え?……い、息抜きって
安藤叶多
安藤叶多
土曜日、暇?
久しぶりにデートしよう
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え、土曜日……!?
デート、す、する!!
うそ……!偶然だとしても、誕生日に叶多くんとデートできるなんて……!幸せすぎる!

神様、ありがとうこざいます!


〜誕生日 当日〜
迎えた11月17日。

叶多くんと会えるのが楽しみすぎて、嬉しすぎて。あまりよく眠れなかった。

ドキドキして、ソワソワして。
16歳って……結婚できるじゃん!なんて、1人で舞い上がったりして。

昨日の自分と、何が違うかって言われたら何も違わないけれど、叶多くんに少しだけ近づけたような気がして頬が緩む。
安藤叶多
安藤叶多
茉夕
佐々木茉夕
佐々木茉夕
か、叶多くん!
おはよう!早いね
安藤叶多
安藤叶多
早く会いたかったから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……!
待ち合わせ場所にいる叶多くんと合流して、早速いつにも増して甘い叶多くんに心臓を撃ち抜かれた。

……誕生日だからかな?
いつもよりずっと、ドキドキしちゃうよ。
安藤叶多
安藤叶多
行くぞ
自然と重なった手は、ギュッと恋人繋ぎで握りしめられた。
〜カフェ〜
叶多くんに手を引かれるままに歩いて、辿り着いたのは『ルミエール』というオシャレな雰囲気のカフェだった。

席に座るなり、手馴れた様子で注文を始めた叶多くんに、勧められるがままカフェモカを注文した。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ここ、よく来るの?
安藤叶多
安藤叶多
いや、そうでもない
かなり久しぶりに来た
佐々木茉夕
佐々木茉夕
そうなんだ!
慣れてる感じだったから
常連さんなのかと思った
安藤叶多
安藤叶多
……母親の店なんだよ、ここ
だから小さい頃は学校帰りに
そのままここに帰ってきてた
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え……!?
か、叶多くんのお母さんのお店!?
店員
失礼します
驚いた私の声が店内に響いたのとほぼ同時に、すぐ後ろで店員さんの声が聞こえた。

そして、私たちのテーブルにコトッとお皿を置いて、ニコリと微笑む店員さん。
店員
ごゆっくりどうぞ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
こ、これ……!
テーブル上に置かれたのは、注文した覚えのないプレート。

4号サイズよりも少し小さいホールケーキにロウソクが1本。炎がオレンジ色にゆらゆらと揺れている。

その周りにオレンジ色のソースでお花が描かれていて……そして、チョコレートで書かれたメッセージに私の涙腺は一瞬で泣く準備を整えた。


” Happy Birthday MAYU ”
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……か、叶多くん
知ってて誘ってくれたの?
安藤叶多
安藤叶多
さすがの俺でも彼女の誕生日くらい
ちゃんと覚えてるっつーの
佐々木茉夕
佐々木茉夕
なんで!?いつ知ったの……!?
安藤叶多
安藤叶多
付き合ったばっかの頃、
茉夕が俺に「誕生日はいつですか?」
って聞いてきたことあっただろ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん!
そしたら叶多くんの誕生日は
「こどもの日」だって言われて
もう終わっちゃった……って残念で
安藤叶多
安藤叶多
あの時「ちなみに私は11月17日です」
って、自分で言ってたの覚えてねぇ?
佐々木茉夕
佐々木茉夕
嘘……全然、覚えてない
そんなちょっとした会話から
誕生日、覚えててくれたの?
安藤叶多
安藤叶多
……悪いかよ。
いつも先越されるから茉夕の誕生日は
絶対、俺から誘うって決めてた
佐々木茉夕
佐々木茉夕
……叶多くんっ
安藤叶多
安藤叶多
どうせ、俺に遠慮して
言わないつもりだったんだろうけど
佐々木茉夕
佐々木茉夕
っ!
叶多くんが何気ない会話を覚えてくれていたこと、こうしてサプライズで誕生日をお祝いしてくれたこと。

嬉しくて、幸せで、叶多くんの笑顔と、一緒に過ごす時間と、16歳の私。その全部が、今宝物になった。
安藤叶多
安藤叶多
とりあえずロウソク消せよ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
あ……!そっか!
じゃあ、行くよ?
───フッと一息で消えたロウソクの火。

ゆっくり顔を上げれば、満足気に微笑む叶多くんと目が合う。
安藤叶多
安藤叶多
おめでとう、茉夕
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ありがとう、叶多くん!
私、きっと今、世界一幸せだよ!
安藤叶多
安藤叶多
フッ、大げさ
佐々木茉夕
佐々木茉夕
大げさじゃないもん!
もう、最高の誕生日になった!
安藤叶多
安藤叶多
まだ、祝い終わってねぇから
佐々木茉夕
佐々木茉夕
え?
安藤叶多
安藤叶多
……ん、これ。開けてみて
ぶっきらぼうに差し出されたのは、シンプルなスエードグレーの細長い箱。

ドキドキしながら箱を開ければ……。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
か、叶多くん……これ!
安藤叶多
安藤叶多
プレゼントとか買ったことねぇし
すげぇ迷ったけど……。
茉夕に似合いそうだなって、思った
そこには、丸みのある可愛らしいムーンデザインのネックレスとお揃いのブレスレッド。
途中スターチャームを挟み込んであるチェーンは、キラキラと輝いて見える。

……叶多くんが、私のために選んでくれた。
それだけでこんなにも胸がいっぱいになって、幸せが大渋滞を起こしてる。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
ありがとう……!!
すっごく、すっごく嬉しい!
……大事にする!
色々な感情が溢れて、目頭が熱くなる。
泣かないようにと笑顔を作るけど、多分下手くそな笑顔になってるだろうな。
安藤叶多
安藤叶多
これなら、学校でも着けられると思って
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん……!
毎日着けるね!
初めて、好きな人と一緒に過ごす誕生日。
こんなにもたくさんの幸せをもらえるなんて、 初めて知った。

叶多くんと出会って、たくさんの幸せを感じて、もっともっと好きが溢れていく。
安藤叶多
安藤叶多
……来年も、再来年も、
その先もずっと、俺の隣にいて
叶多くんの言葉に、我慢していた涙が堪えきれず頬を伝うのを感じながら、私は力強く頷いた。
佐々木茉夕
佐々木茉夕
うん……!
ずっと叶多くんの隣にいる
あなたがそれを望んでくれるなら、

来年も、再来年も、その先もずっと。
……叶多くんの隣で歳を重ねていきたい。

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