〈sideあなた〉
天城)「男子、目閉じて」
目を閉じるように伝えると私はシスターのコスプレをブチブチっと破いた。
茅野)「あ、ちょ、あなたちゃん、!?」
天城)「この服動きにくいからさ」
そして手持ちのバッグから取り出した高専の制服を身に纏う。任務後のものなので汗臭いし気持ち悪いけど背に腹は変えられない。普段は巻いてるサラシは術式で代替品を生み出し、片岡さんと岡野さんに手伝ってもらいキツく巻いてもらったため、身軽になった。戦闘体制に入ったというわけだ。
前原)「突然目を閉じろって言われたかと思えば…生着替えしてたのかよ」
赤羽)「生、…っ、」
磯貝)「ところで死神はどうするんだ?」
天城)「うん…色々考えたんだけど、ここに置いて行こうと思う」
全員)「!?」
片岡)「それだけ事態が深刻ってわけね…」
天城)「そうだね。渋谷一帯に帷が降りるなんて前代未聞、この際何が起きたっておかしくない。そういうときに死神を連れての行動はリスクを感じた。私の任務はあくまでも君たちの護衛が第一だから。そういうわけだから…覚悟はしておいて欲しい」
潮田)「覚悟?」
赤羽)「要するに…俺たちを最優先にするべく、巻き込まれた民間人を見殺しにする可能性もあるってこと」
岡野)「ひっ…!」
天城)「カルマくんの言う通り。私だって、一般人のトリアージなんて望んでない。でも…そうも言ってられる状況なのか、それすら危うい。少なくとも皆を帳外に出して補助監督たちに保護されるところを見届けるまではこのスタンスで行かせてもらうから」
本当は、こんな悲惨な世界を見せたくなんかなかった。知らなくていい世界なのに、私のせいでこれからは否応無しに呪術界のリアルを見ることになってしまうだろう。彼らを無傷で帰らせるのは、せめてもの贖罪だった。
天城)「…それじゃあ行くよ、地上に」
私が先頭に立ち、できるだけ固まる形で進む。
これから何が起こるか、頭でいくつもシミュレーションを繰り返すことに集中していたからだろうか。私は気づかなかった。
死神)「はっ…馬鹿だねぇ、天城あなた。この時点で既に詰みなのにさ…だって今頃、あの男は『封印』されてるだろうからね…」
死神の不穏なセリフに。
非常階段を8人で昇る。
岡野)「階段くらい、何て事ないけどさ…エレベーターとかエスカレーターを使う選択肢は、なかったの?」
天城)「ないかな。エレベーターは閉鎖的で閉じ込められた場合皆を危険に巻き込む。エスカレーターは一般人が使用してる可能性があるし…」
前原)「エスカレーターに関しては何もデメリット感じねえけど…」
天城)「こんな状況下でどこまで貫けるか分からないけど、一般人の前で万一呪霊に遭ったら色々と都合が悪いしね」
冷静を努めてるが、正直これからのことが想像できなくて冷や汗が止まらない。
天城)「はぁ…はぁ…」
そうか。これが、『怖い』って気持ちなんだ。いつも1人か、同業者としかこういう状況にいなかったから知らなかった…。今の私は、この先何が起こるかも分からない未来で7人の護衛対象の一般人を守り抜かなきゃいけない。自らが今死ぬことはないからこそ、守り切れなくて誰かが死んでしまったら…私はその事実に向き合わなきゃなんだ。
たかが階段の昇り降り、それだけなのに体が震えて、心臓がばくばくして、息切れして、足が竦む。
天城)(絶対に悟られるな…怖いのはあの子たちの方だから…私が、皆を安心させなきゃ…)
そんなときだった。
赤羽)「あなたちゃん」
冷たく微かに震えを刻む私の右手を優しく、それでもしっかりとカルマくんの温かい手が包み込んだ。
赤羽)「手…震えてる。呼吸も上がって、しんどそう。まさかだけどさ…俺たちを守らなきゃって全部背負ってなんかないよね?」
天城)「…っ、」
赤羽)「確かにさ、俺たちにはあなたちゃんみたいな力はないよ。それに護衛対象だから守り抜かなきゃ、ってあなたちゃんなりに責任を持って任務と向き合ってる事も理解してるつもり。でもさ…」
罰が悪くなり俯いて顔を逸らした私は恐る恐る顔をあげて皆を見る。
赤羽)「100%守られないといけないほど、そこまでヤワじゃないよ?俺たち」
茅野)「そうだよ、あなたちゃん!これでも私たち、マッハ20相手に暗殺仕掛けるアサシンだよ?」
磯貝)「茅野のいう通りだな、一般人は一般人でも」
前原)「ただのパンピーじゃねーっつーの!」
岡野)「例え呪霊とかに戦う術がなくても、」
片岡)「自己防衛くらいなら私たちにだって出来る…そうでしょ、渚」
潮田)「うん。だからさ、もう少し…僕らを信じて欲しいな」
天城)「みんな…」
7人の言葉が私の極度の緊張を少しずつ解してゆく。そっか…そうだよね、私…信頼し切れてなかった。
天城)「そうだね…ありがとう」
私は即座に術式行使して彼らが普段使うあの武器に模したものを生み出す。
天城)「普段のとは違って、呪力を持ってるから呪霊に効くよ。勘違いしないで、むやみに呪霊を祓うことを許可したわけじゃないから。あくまでも、護身用」
前原)「ふっ…この、ツンデレめ!信用したならしたって言えよな!」
天城)「な、!ツンデレなわけっ!」
赤羽)「…緊張も解けたみたいだね」
天城)「…うん、ありがと」
私の後ろにいるのは7人の中学生じゃない。7人のアサシンだった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。