ウジside _______________
人造人間。
あなたから、俺は人造人間だと、そう言われている。
人造人間は心がないらしい。心がなければ感情というものがわからない。そして、意志もない。
いわゆる、人形。それが俺。
「普通の人間と同じように生きれるように、協力するね。」
ある日、あなたはそう言った。
その日から、あなたは俺にいろんなものを教えてくれた。
気になったものを「あれは何」と聞くと、あなたは教えてくれた。聞きたいことじゃなくても、教えてくれた。
いろんなことを体験させてくれて、晴れた日には外へ連れて行かれ、俺を景色と触れさせた。
開いた窓から聞こえてきた「虹」という言葉。
「虹って何」と聞くと、虹についてたくさん教えてくれた。
その日は虹は浮かんでなくて、ずっと見上げ続けても現れることはなかった。
見上げ続け、首が痛く感じて来た時、あなたは「いつか、見に行けるといいね」と言った。
その言葉に、トクトクと身体の中から音が聞こえたのを、覚えてる。
俺は、心も感情も意志もない人造人間という人形。
なのに、初めて虹を見てみたいと思った。
それから毎日空を眺めてるけど、なかなか虹は現れない。雨上がりにあなたと外へ出てみても、7色のアーチは空のどこにもなく、現れることなく湿った地面が乾いていく。
その度に、無い心にモヤがかかったような気がした。
名前を呼ばれて振り向くと、あなたは人間を連れてきていた。
それを見た時、胸がチクチクし、そして、ざわめいた。
男は俺を頭からつま先までギラギラと光ってるような目で見た。
この男は、なんだ。
男が俺を分析している間、あなたに目を向けると、いつも目が暖かいはずのに、この時は昨日の空のように曇っていた。
俺は聞いてみることにした。
再び目線を人間に移す。
あなたは何も言わず、ただ遠い目をしていた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!