ウジ side_______________
実験が終わった。
何もない白い空間に、また、ひとりで放置された。
傷は治りかけても、また傷ができて治らない。
誰も手当をしない。
今日は他の人造人間を見た。顔が潰れていたり、身体がおかしな方向へ曲がっていたりしていた。何も喋らない、意志もない、感情もない、人形だった。
俺は手のひらを眺めた。
すると、空間の扉が開いて、声が聞こえた。
俺は顔を上げた。
あなた。
あなた。
あなたがそばまで来ると、俺を抱きしめた。
暖かい。
ずっとこのままでいたい。
そう思うのは、なんで。
俺は人造人間だ。だから、何も求めない。何も望まない。何も感じない。なのに。なんで、こう思うの。
あなたは抱きしめる力を強くして、そう言った。
肩に顔を埋められる。
あなたから香ってくる匂い、体温、身体の柔らかさ、声で、俺の心臓の鼓動が、早くなっていった。
ねえ、あなた。
これって、なに?
この気持ちって、なに?
俺に、心は……。
俺は腕を背中に回して、あなたを抱きしめ返した。
肩から顔を上げたあなたは、涙を流していた。
あなたの手を掴み、俺の胸に当てると、目を見開いた。
あなたは口を閉じて俯く。それから、俺から離れた。
離れてほしくない。そう思ってしまい、手を伸ばした。
伸ばした手をあなたが掴んで、俺を引っ張った。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
ウジさんなにか芽生えて……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。