人造人間を造ったという学者、研究員はそうそういないだろう。
もしかしたら、私が一番最初かもしれない。
世界初の人造人間。それを造ったのは私だということに、ほんのり優越感に浸る。
しかし、その優越感もすぐに崩れる。
世界初の人造人間……。人造人間の生態を知り尽くせていない。つまり、この人造人間には謎がまだあるということ。
活動時間はどれくらいか、睡眠を取らせなければどれくらいで死ぬか、成長はするか。
他にもいろいろ知りたいことがたくさんある。
この人造人間のウジも、知りたいことがたくさんあって、よく私に聞いてくるようになった。
ウジの知りたいことを教えてあげるのと、ウジが知ろうとしてないことを教えてあげるのと、いろんな体験をさせていくことに夢中になり、私の知りたいことは、いつまでも調べられない。
ウジの教育もそうだが、人造人間は、人造人間を使って調べなければいけない。生憎、人造人間を造るための費用や材料が備わっていないのだ。だから、人造人間のことを調べれない。
ウジも人造人間ではあるけど、ウジを使って実験するのは惜しいと思った。
今日も時間が空いたから、天気の良い空の下を、ウジの手を引いてのんびり歩いていた。その時、ウジはそう聞いてきた。
家から出てきても、虹が現れることなんて滅多にないから、当然ウジは虹を見たことがなかったのだ。
スマホで虹の写真を探して見せるけど、ウジはイマイチ、ピンと来てはいなさそうだった。そりゃあ、実際に見た方が、印象に残りやすい。
ウジは眩しそうに目を細めて、空を見上げた。
立ち止まり、私も空を見上げてみた。
雲ひとつない、快晴の空。斜め上を見上げていればなんとも思わないけど、顎を上げて真上を見つめると、なんとなく吸い込まれてしまいそうな気がして、胸がざわついた。
もしもこの地に足が着いていなくて、天地がひっくり返っていたり、そもそも地はなかったら。
私は空へと堕ちていくのはもちろん、宇宙へ放り出されてしまうだろう。それでも落下が止まらない場合は私は永遠に彷徨うことになりそう。
そんなことは今関係ないから放り投げよう。
ずっと空を見てるウジを私は見つめた。
ゆっくりと膨らんで萎む胸。呼吸の安定を表している。
ウジの目は、太陽の光が反射して、感情がこもったかのように瞳が輝いていた。しかし、そこに感情があるのかまったくわからない。所詮、ただの反射だからだ。
ウジはそう聞いてきた。
ウジはそれ以上聞かず、とりあえず口を閉じ、ずっと空を眺める。
虹、見たいのかな。
虹は人工的にもつくれる。だけど、自然に現れるあの虹の方が、何百倍も美しい。ウジの肉眼で見る初めての虹は、小さなものでなく、大きなものにしてあげたいな。
そう言うと、ウジは私に顔を向けて、返事をした。
とても短い返事をすると同時に、微かにウジの瞳が揺れた。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!