ウジ side_______________
新しい家に来てから、環境がガラリと変わった。
朝ごはんはベーコンと目玉焼きといった、味のするものじゃなくて、ドロドロにされた液体のもの。昼ごはんも夜ごはんも同じ。食べようと思わなかった。でも食べなければ身体に衝撃が加わった。
白い服の男に手を引かれて連れて行かれる場所は、いつも硬い寝台が置いてある場所。そこに寝かされて、身体にベルトを巻きつけられ、動けなくされる。
そして、皮膚を切り裂いて身体の中を調べられたり、電気を加えられたりする。
他にもされることはたくさんあるけど、その時は必ず、目の前が真っ暗になった。
目が覚めると元いた場所にいる。
今日も目が覚めたら元いた場所にいた。
身体に傷が沢山できている。
手にできている傷を眺めて、俺は呟いた。
あの日から何日が経過したかわからない。カレンダーというものはここにはないし、時計というものもここにはないし、外を眺めることができる窓すらない。
なにもない、ただの白い空間に、俺はひとりで放置されていた。
あなたの家にいた時は、ご飯はあんな液体じゃなく味のする固形物で、衝撃を加えられることもなくて、部屋には物があって。
あなたもいた。
あなたと一緒に料理をした日、包丁で指を切った。その時、すぐに手当てというものをしてくれた。
俺は今、切り傷や痣、火傷跡がたくさんあるのに、あなたは来ない。手当てをしてくれない。
なんで、来ないの。
なにか物足りないような気がした。
いつもいたあなたがいないからかもしれない。
ここに来てから、ずっとあなたのことを考えてる。絶対にいないのに、探してしまう。また何か教えてほしい。
何か、教えて、ほしい……?
俺は人造人間。心も感情も意志もない。言われたことに従うだけ。
そういう人形。なのに……。
ずっと、ずっと、求めている気がする。
離れてしまう前も、その前からも。
あなたとたくさん話をして、たくさんの物に触れてきて。そうしているうちに、何かを望むようになっていた。
これって、何。求めるのは、なんで。
﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!