それは、昼ご飯を食べている時に始まった。
「ねぇあなた、あなたって三上くんと付き合ってもうすぐ一年だよね?」
みうが唐突に聞いてきた。
何の確認だろう、と疑問を抱きながら答える。
「うん。それがどうかした?」
「いやー、あんまり大きい声では言えないんだけど……」
「由麻も聞いていい?」
「いいよー」
由麻も少し身を乗り出して、みんなで顔を寄せ合う。
傍から見たら変なんだろうな、この絵面。
なんて関係ないことを思っていたからか、次のみうのセリフで私は思いきりむせることになった。
「もうヤった?」
「げっほ…………ちょ、みぅ、ゲホッゴホ」
「あ、それ由麻も知りたいかも……。下の名前で呼び合ったり恋人繋ぎ普通にしてたり、結構恋人っぽくなってるからあなたちゃんたち」
由麻が期待のこもった視線を向けてくる。
私は顔の熱と咳が落ち着いてから、二人に言った。
「……無理だよ。絶対痛いし、別にしなくても恋人続けられるし」
「えー、それこそ由麻の漫画で見たような気持ちとかないの?“願わくば、あなたと一つになりたい……♡”」
「由麻そんな漫画持ってたっけ?」
「ううん」
ふるふる、と由麻が首を振った。だよね。
実は私は中二の秋から恋愛に関する何もかもを見ておらず、つまり『付き合う』ということは知っていても、その内容はほとんど知らなかった。基本中の基本の「恋人繋ぎ」すらわからなかったのである。
そこで、由麻が少女漫画を貸してくれるようになり、みうがオススメの恋愛ドラマを教えてくれるようになった。見て勉強しろ、という暗示だ。そのおかげで助かったことはたくさんあり、二人には感謝している。
……でも、キスの先は別に知らないままでもよかったな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。