第4話
一年②
「漫画になくても私の記憶にはある!つまりドラマのセリフだ!!そしてそう言ったら100パーセント三上くんは」
「わかったわかったから全部言わないで」
「あなたちゃん顔赤い!かわいい」
由麻にふふっと笑われたが、私は言い返す気にもなれなかった。
私こんなキャラじゃなかったのに……。
「まぁおふざけは置いといて、あなた、多分三上くんの方は待ってるよ。いろいろ我慢してるんじゃない?三上くん、優しいし」
「優しいのは知って……る……けど」
言っている途中で、“言わされた”ことに気付いた。したり顔のみうにイラッとした。
……でも、確かに、待ってくれてるのかもしれない。
思えばそれらしい行動はあった。一回だけだけど、押し倒されたこともある。びっくりしてたらすぐどいてくれて、悪い、って謝られた。
「そういうこと」を考えたこともなかった。私――バカだ。
「なんて言えば伝わる?」
「おぉ!!むふふ、それはもちろん、『あなたとひと「由麻ー、教えて」
「えっとね……」
文句を垂れるみうを二人で無視し、私は由麻から『その言葉』を得た。
◇◆◇
帰り道。
私は隣を歩く遼介の顔を見上げた。
「なんだ?」
「……なんでもない」
無意識に俯く。すると、遼介が足を止めて私を引き寄せた。
「言え。なんでもなくても俺は知りたい」
私の顔を両手で包んで上を向かせ、しっかりと目を合わせて遼介は言った。
それがどうにもかっこよくて、目を離したくないのに逸らしたくて……結局逸らしてしまった。
遼介が不満そうな表情をしたので、私は少し早く口を動かした。
「もうすぐ一年じゃん?付き合って」
「あぁ、そうだな」
「それで……なんだけど」
声が震えそうになる。もしかしたら震えていたかもしれない。
けれど、言い出す怖さも、不安も、恥ずかしさも、逃げる理由にはならない。
私はぎゅっと拳を強く握って、綺麗な漆黒の瞳を、射抜くように見つめた。
「……“初めて”、もらってくれる?」