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「初恋の君へ」
俺の両親は中々のクズだったと思う。
放任主義、というか育児放棄で
家にいた記憶がないので顔も思い出せない。
まぁいても
無反応か怒鳴っていたかだから
覚えてたくもないけれど。
そんな環境だから無知で、
人付き合いもなくて、
俺の友達は
よく食材を取りに行く池の
カエル、カエ太郎だけだった。
いつもそこで過ごしてた。
捨てられたダンボールを引いていたので
軽く家みたいになっていたと思う。
……だから俺は君がいなければ
人との関わり方を忘れたいたと思う。
その日はついに食材がなくて
最後に食べた夕飯、雑草は
もう胃の中でとけかけていて
吐きそうなぐらいにお腹が空いていた。
もうこのまま死んでもいいかもな。
そう思い浮かべた時、
つつかれた。
「……えぇ?!
生きてる?
死んでたらダメだけど!」
目を開けると第一声は
これだった。
「だ、大丈夫?」
手を差し出されたから
乱暴に掴んで立った。
「えっと、とりあえず。
これ、いる?」
しぶしぶというか、
距離を取りながら目を細めて
祈るように差し出してきた食料たち。
俺は返事もせずに
飛びついた。
「食べたかったのにっ!
……でも、そんなにお腹減ってたの?」
首を小さく縦に降った。
「喋れないの?」
今度は横に小さく。
「君の名前は?」
「……怜央。」
「へぇ、怜央ね!
あ、ねぇねぇそれってカエルでしょ!」
「うん。」
「あ、もう帰らなきゃ、
またね、怜央!」
……今思えば
あれが、
手を差し出された瞬間が
きっと初恋だったんだと思う。
……それからあいつは飽きずに
毎日来て毎日話して、寝て、食べて、
帰って行った。
普通に、楽しかった。
だけど、ある日カエ太郎が、
たった1人の友達が死んだ。
涙は、出なかったけど
悲しくて無気力で
あいつと遊ぶ気にもならなかった。
「怜央、どうしたの?」
「……別に」
「そういうの、嘘って言うんだよ!
嘘はいけないんだって。」
「……別に、本当だから。」
「へぇ。
……あれ、ねぇ、カエ太郎は?
今日はロケット作ってきたんだけど。」
「死んだ。」
「……え。」
「昨日の夜、そこで倒れてて
埋めてやった。」
「……うああああ!!!」
……意味が分からなかった。
なんでこいつが泣くのか、
泣くほどでもないはずなのに。
「怜央が泣かないから
私がもっと泣くのぉー!」
もう本格的に意味が分からなかった。
だけど、慌てて、つい、
咄嗟に関係ないことを言った。
「いつか、死ぬから。
たった1人の友達だったけど
でも、死ぬのには、変わらない。」
「……へ?」
「何言ってるの?
私も友達だよ?」
「……は?」
俺たち2人は全くおんなじ顔を
見合わせあった。
「……え、友達だもん、ね?」
「……そ、うなのか?」
…………
「あははっ!」
何がおかしいのは分からないけど
全く同じタイミングで声を合わせて
俺たちは笑った。
そして
「ねぇ、怜央。
これ友達だから、あげる!」
「……ん?」
ぐしゃぐしゃの青い紐が手に握らされていた。
「じゃあね!
あ、あと今度は長生きする
カメかおーね!」
手を振って笑顔であいつは
帰って行った。
そして、恋に気づくのはまた別の話。
初恋の君へ【完】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!