「……っはぁー。」

読み終わった恋愛漫画を片隅に置いて、
自分を落ち着かせるために深い息をつく。

一言で言えば最高だった。

障害を乗り越えて生涯を共に過ごす
仲になるなんて素晴らしいことだよ。

とりあえずこれを貸してくれた咲楽にお礼の
と作品語りを添えてメールを送り付ける。

「……尊い。」

この漫画の素晴らしい所はなんて言ったって
ヒロインの初恋相手がヒロインに振られる
っていうどんでも展開であり
この作者はそういうどんでん返しを好む傾向に
あるから次は主人公が本気で浮気するとか
有り得るんじゃない？私得じゃない？
いや全世界得じゃない？

強気なヒロインは高校に入って
天然イケメンに頼られて惚れて
小学校残ろ密かに好きだった初恋相手の
俺様が転校してきて告白されて 
ヒロインはほろ苦い昔の恋と
甘酸っぱい今の恋を比べて

最終的に天然イケメンを取るんだよね。
その気持ちはものすごい分かるし 
ヒロインがそこで見捨てたら
きっとこの天然具合からして死ぬと思う。

脳内で1人推し語りをしたところで返事は返って来ない。
というか、これを聞かれたら私は死ぬ自信がある。
特に蒼とかにバレたら私の人生が3回ぐらい
終わるからこの尊さは独り占めするとしよう。

「……あ、咲楽からか。」

そんなことを考えていたら
携帯の通知音がなり慌てて画面を見れば
良かった、咲楽からだ。

〈絶対佐奈は天然の方が好きだと思った〉

〈全人類みんな天然が好きだよ？〉

〈主語が大きい……佐奈の趣味でしょ〉

〈別にこのキャラが好きなだけ〉

〈蒼は？〉

「はぁ？！」

突然の不意打ちで思わず大声が出る。

いやいや、今蒼は関係ないと思うけど。うん。

なんでいきなり蒼の話になるの？天然だから？

いやいやそれだと私がまるで蒼のこと、
好きみたいにならない？

それは絶対ない！私は別に蒼のことを
そんな目で見てないしただの同期であり恩人であり。

あ、ちょっと辞めて。
私の脳内を駆け回らないで想像上の蒼。

なんか意識してるみたいになるから
この話はやめよう！うん！

いや確かに蒼は天然だしイケメンだし
私の事を2回ぐらい助けてくれたし
勿論かっこいいし、ギャップすごいし
笑顔は中々に可愛いし、

あれちょっと待って。
こんだけ褒めれるとか私あいつのこと
相当好きみたいじゃん辞めよう、辞めよう。

〈絶対それは関係ない！〉

それだけ送ってもう何も考えないように電源を切った。

ほんっとになんでもない、と思う。うん。
蒼と私はあくまで同期だから！

……これが恋愛漫画ならベタに結ばれて、
幸せなところで完結するのに。なんて。

いや、それだと私結ばれたいみたいじゃん。

別にそういう意味じゃないんだけど。

ー以下無限ループー

                                     佐奈の苦悩fin.