第9話

もう一度
45
2018/04/01 02:25
体があつい、苦しい、助けて。
目を力いっぱい開いた。忘れていた感情が私の中から溢れでてくる。お母さんごめんなさい。愛してる。会いたい。悲しい。どうしてこんなにも苦しいのに満たされていくの。
そうだ。祈る度に、何かを忘れていって、忘れていることも、わからなくなって、自分の名前さえもわからなくなってしまった。
「あなたは、ちゃんと生きていたんですよ。ちゃんと愛を感じて、与えて、大切なものもあって。だから私はあなたを迎えに来たんです」
誰かを必要としたくて何かを与えないと必要とされなくて。ぐるぐるした感情を持った自分が嫌いで。だから自分以外の他人を愛したかった。必要としたかった。守りたかった。
なんだか、桜が笑っているようにみえた。
「ありがとう」
私が言うと彼女は私の体から腕を手解き、とても艶やかに微笑んだ。

きっとはじめから分かっていたんだなと思う。
「次は絶対に行くから、今度は無くならないうちに迎えに来てくれる?」
彼女はもちろん、と言うかのように私の頭に輪をのせた。
私は誰かに、何かを与えるために祈ることで記憶を落としてきていたんだ。

桜が静かに、彼女の髪に絡まった。

プリ小説オーディオドラマ