第3話

私たちはわからない
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2018/04/01 02:24
その事故の後から私を必要とする声が聞こえなくなった。誰も私を必要としてくれない。私は与えることしかできないんだから。求めてほしい。お願い、誰か。喉が乾くの。
誰に奇跡を与えれば良いのかわからない。地球上のとめどない命を繋ぎ止めても私の心は満たされなくて。
この前も桜をみたような気がする。病室の窓から見える暖かそうな景色。目を閉じて横になる女性と、その隣で彼女の命をとどめているかのような意識を見てとれた。だから私は神様に祈ったのに。
私が祈りの言葉を紡ぐ度にそこに笑顔があることは確かだった。あぁ、私は幸せを与えることができたんだ、と満足して。


「どうして……生きてるの…」


私が想像していた風景とは違う。ベッドの横にいた男性は涙をながし、目を開いた彼女は天井を見つめたまま、この世界を忌むような涙を肌にさらした。

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