第7話

かみしめて
67
2018/04/01 02:24
結寿───……。


あ、これお父さんの声だ。
「結寿、お前はな、お母さんとお父さんの何よりも大切な存在なんだよ」
すごい昔の記憶だ。
懐かしい。会いたい。私、自分が幸せを知らないまま他人に与えてるものだと思っていたけれど、私もたくさんの人たちから幸せをもらっていたんだ。

お互いの存在を相憐れむように愛を与え合うものが人間だと、知っていた。
私は、知っているに過ぎなかった。
自分の体が誰かに包まれている気がして目を開いた。そうだ。抱きしめられてからどこかほわほわして覚束ない夢を見ていた。
「ねえ」
私がそう言うと彼女はまたゆず、と言い腕の力を強くした。

自分の肌が沸騰したのかと思った。ぶわっとなんとも言えない気持ちにくるまれて息をするのが難しい。
「結寿」
私はまた、得体の知れない浮く感じを覚えた。

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