第3話

シンデレラ、文化発表会へ
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2019/02/22 14:34
宮間羽衣
これがアート書道よ!
詩島歩乃華
文字に、色が……
半ば無理やり連れてこられた美術室。
そこにはカラフルな文字が、並んでいた。
水色で流れるように崩れた字で書かれた『川』、赤や黄色のグラデーションがかかった『夕日』。
文字だけでなく、色や形も合わせて表現されていた。
宮間羽衣
綺麗でしょ? 最近こういうのどうかなと思って作ってるんだ
詩島歩乃華
うん、綺麗……この字は、羽衣ちゃんが書いたの?
宮間羽衣
文字はパソコンで書いたのをトレースしただけ。
だからこそ、歩乃華の出番ですよ!
詩島歩乃華
もしかして、私がやるの!?
無理だよ、色とか分かんないし……
宮間羽衣
そこは私がサポートする!
字が綺麗で頼めるのは親友だけなのさー
頼むよー……それにさ――
羽衣ちゃんは私の顔をまっすぐ見る。
宮間羽衣
誉めてくれた作品、直したかったんでしょ?
詩島歩乃華
羽衣ちゃん、ありがとう……!
宮間羽衣
よし、じゃあ今日は簡単に準備だけして、明日から頑張ろう!
文発まで時間ないしね!
詩島歩乃華
うん!
それから私達は、なんとか文化発表会に間に合う作品を完成させた。
アル君から褒めてもらった『枯木逢春』という言葉は、
墨だけで書かれた枯れ木が、春に近づくにつれて色鮮やかな花を咲かせる。
文字と絵が合わさって、意味が楽しく伝わるような作品に生まれ変わった。
羽衣ちゃんのはからいで、
実物は書道部で展示させてもらえることになり、
私の作品は、唯一色のある作品として注目されていた。
そして、変わったのは作品だけではなかった。
詩島歩乃華
これ、目立ち過ぎじゃ……
宮間羽衣
大丈夫!
世間ではナチュラルメイクって呼ばれてるんだから!
詩島歩乃華
すごい、視界が明るいよ……!?
宮間羽衣
いつも前髪で隠してるからでしょうが!
書道部員
歩乃華、書道教室始めるよー
宮間羽衣
ほら、行ってきな!
王子様も待ってる!
詩島歩乃華
わ、わかったから……でも、ありがとね
宮間羽衣
いいってことよ! 頑張ってね!
書道部のパフォーマンスとして、
一般の人や見学に来た生徒に対して小さな書道教室をする。
私も先生役で出るのだが、
明らかに視線が私に集まっていた。
生徒A
すごい可愛い……
生徒B
きれーい……
生徒C
あんな子いる高校、羨ましいな……
詩島歩乃華
(すごい恥ずかしい……!)
羽衣ちゃんから髪のセットやメイクをしてもらった結果、
私は自分じゃないと思うほどに変わった。
目立たないように前髪ごと長く伸ばしていた髪は、
すっかり顔が見えるように前は短く。
後ろは肩くらいまでにして清楚な感じにしたらしい。
メイクも派手なものではなく、
高校生らしく健康的で色白っぽく見えるようにしたそうだ。
素材がいいからこんなもので十分とは褒められたが、
今はとっても恥ずかしくて奥に引っ込みたい。
しかも、肝心な人が見当たらない。
詩島歩乃華
(あれ、アル君いない? すごく楽しみにしてたのに……)
書道教室は何事もなく終わり、
最後までアル君が来ることは無かった。
詩島歩乃華
あんなに楽しみにしてたのに……
そうして片付けをしている最中だった。
アルシェード・エルマ・アマリア
すみません! まだ書道教室はやってますか!?
詩島歩乃華
アル……シェード君!?
えっと、今終わりました……
アルシェード・エルマ・アマリア
そんな……!? いえ、全部自分が悪いんです……
詩島歩乃華
何があったんですか?
アルシェード・エルマ・アマリア
実は……
今日を楽しみにしていたら、前日眠れなくて、寝坊を……
詩島歩乃華
(理由が可愛い……!?)
アルシェード・エルマ・アマリア
すみません、展示だけ見て帰ります……
子供っぽい理由はともかく、
声のトーンに明らかに元気がない。
流石にかわいそうだし、何より約束は守ってあげたい。
詩島歩乃華
あの……見て回る時間なくなるかもしれないけど……
書道、やりますか?
アルシェード・エルマ・アマリア
いいんですか!?
あ、でもあなたも他の展示を見に行く時間は……
詩島歩乃華
大丈夫です。人との約束のほうが大事ですから
アルシェード・エルマ・アマリア
ありがとうございます! じゃあ……
一瞬で笑顔になったかと思えば、今度は困りだした。
黙っていればメッシュでクールな感じに見えるのに、
さっきから礼儀正しかったり感情豊かだったり、
内面は真逆な人らしい。
アルシェード・エルマ・アマリア
すみません、まだ自分のクラスしか名前がわからなくて……
名前を聞いてもいいですか?
詩島歩乃華
そっか、この前来たばっかりですもんね
私は詩島歩乃華です
アルシェード・エルマ・アマリア
詩島さんですね。よろしくお願いします!
僕はアルシェード・エルマ・アマリアといいます!
詩島歩乃華
わ、全部聞くと長いんですね……
アルシェード・エルマ・アマリア
はい。みんなアルと呼んでくれてます。
詩島さんも、そう呼んでください!
詩島歩乃華
分かりました、よろしくお願いします、アル君
アルシェード・エルマ・アマリア
あ、そういえば詩島さん、髪を短くしました?
詩島歩乃華
え、まあ、友達にしてもらって……
アルシェード・エルマ・アマリア
いいですね! 前より明るくなった気がします!
詩島歩乃華
あ、ありがとうございます……
他の部員が、別の部活の展示を見に行く中、
私とアル君、二人だけの書道教室が始まった。
物語のお姫様が王子様からダンスに誘われるときも、
今の私みたいに緊張したんだろうか?

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