半ば無理やり連れてこられた美術室。
そこにはカラフルな文字が、並んでいた。
水色で流れるように崩れた字で書かれた『川』、赤や黄色のグラデーションがかかった『夕日』。
文字だけでなく、色や形も合わせて表現されていた。
羽衣ちゃんは私の顔をまっすぐ見る。
それから私達は、なんとか文化発表会に間に合う作品を完成させた。
アル君から褒めてもらった『枯木逢春』という言葉は、
墨だけで書かれた枯れ木が、春に近づくにつれて色鮮やかな花を咲かせる。
文字と絵が合わさって、意味が楽しく伝わるような作品に生まれ変わった。
羽衣ちゃんのはからいで、
実物は書道部で展示させてもらえることになり、
私の作品は、唯一色のある作品として注目されていた。
そして、変わったのは作品だけではなかった。
書道部のパフォーマンスとして、
一般の人や見学に来た生徒に対して小さな書道教室をする。
私も先生役で出るのだが、
明らかに視線が私に集まっていた。
羽衣ちゃんから髪のセットやメイクをしてもらった結果、
私は自分じゃないと思うほどに変わった。
目立たないように前髪ごと長く伸ばしていた髪は、
すっかり顔が見えるように前は短く。
後ろは肩くらいまでにして清楚な感じにしたらしい。
メイクも派手なものではなく、
高校生らしく健康的で色白っぽく見えるようにしたそうだ。
素材がいいからこんなもので十分とは褒められたが、
今はとっても恥ずかしくて奥に引っ込みたい。
しかも、肝心な人が見当たらない。
書道教室は何事もなく終わり、
最後までアル君が来ることは無かった。
そうして片付けをしている最中だった。
子供っぽい理由はともかく、
声のトーンに明らかに元気がない。
流石にかわいそうだし、何より約束は守ってあげたい。
一瞬で笑顔になったかと思えば、今度は困りだした。
黙っていればメッシュでクールな感じに見えるのに、
さっきから礼儀正しかったり感情豊かだったり、
内面は真逆な人らしい。
他の部員が、別の部活の展示を見に行く中、
私とアル君、二人だけの書道教室が始まった。
物語のお姫様が王子様からダンスに誘われるときも、
今の私みたいに緊張したんだろうか?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。