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第5話

灰から輝くシンデレラ
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2019/02/26 08:28
いじめっ子A
詩島さん、ちょっと来てほしいんだけど
いじめっ子B
来てくれるよね?
詩島歩乃華
……うん、いいよ
文化発表会も終わって、またいつもの毎日がやってくる。
文化発表会での楽しかった思い出にひたる暇もなく、
今日も私はいじめられる。
いじめっ子A
昨日はごめんねぇ、トイレ掃除手伝ってもらって
いじめっ子B
ドジってバケツの水かけちゃってさぁ
いじめっ子C
用事があるから途中で抜けちゃったもんねぇ
詩島歩乃華
用事ならしかたないんじゃないかな……
最近は教室ではなく、場所を変えていじめられるようになった。
あれから私とアル君が話したことが伝わったからだろうか?
それともメイクはしてないけど、
髪型が変わったのが気に入らないと思われた?
私には分からないけど、
いじめの内容がひどくなっていた。
いじめっ子A
ごめんねー、先生に資料持っていって欲しいって言われたんだけどさ?
結構多いから手伝ってほしかったんだよねぇ
詩島歩乃華
……どれを持っていけばいいの?
いじめっ子B
あそこの一番奥の本だって
詩島歩乃華
分かった、あれだね
いじめっ子C
そうそう……よろしくねっ!
詩島歩乃華
あっ!?
資料室に入ろうとして、後ろから突き飛ばされた。
そして扉を閉められる。
詩島歩乃華
何するの!?
いじめっ子A
言ったじゃん、王子様と仲良くなりたいって
それで人が多いから減らそうと思ったのにさぁ
いじめっ子B
よりによって一番近づいてんの
すごいムカつくんだけど!
いじめっ子C
だからここに閉じ込めておけばいいかなって
詩島歩乃華
待ってよ、授業があるんだよ!?
扉を開けようとするが、開かない。
どんなに開けようとしても、私の力じゃびくともしない。
いじめっ子A
ま、気がついたら誰か開けてくれるよ。じゃあねー
詩島歩乃華
ねえ、待って! ねえ!?
助けを呼ぼうにも、何も持っていない。
窓から叫んで、助けを呼ぶ?
外には人がいるけど、先生に知られたら、
きっと今よりいじめがひどくなる。
それは、耐えられないかもしれない。
詩島歩乃華
もう、授業始まっちゃった……
校庭では体育の授業が行われていた。
そこにはアル君の姿があった。
アルシェード・エルマ・アマリア
(必ず助けてみせます)
前に言ってくれた言葉を思い返して、
祈るしかできない。
詩島歩乃華
助けて……アル君……!
言葉も届かないし、ここから彼を眺めることしかできない。
だけど、彼は応えてくれた。
詩島歩乃華
こっち、気がついてくれた……!
彼は確かに校庭から私の方を見た。
軽く手を上げてから、校舎の方へ走っていく。
わざわざ授業中なのにもかかわらず。
詩島歩乃華
本当に、助けにきてくれるんだ……!
ほんのり薄暗い資料室の中で、
私は扉を開く音が聞こえるのをワクワクしながら待つ。
いつ来るだろう?
すぐかな?
まだかかるかな?
とても長く感じる時間、頭の中では何回も彼が扉を開けてくれた。
そしてついに扉から音がして、
資料室に光が差した。
詩島歩乃華
アル君――
いじめっ子A
ごめんねー置いてったりしてさ?
扉を開けたのは、
私をここに閉じ込めた人たちだった。
詩島歩乃華
な、なんで……?
今授業中……
いじめっ子A
なんか自習になってさぁ、お手洗いがてら様子見?
いじめっ子B
でも戻っても退屈だし、あんたが王子様と仲良くなったって聞いたからさぁ……
いじめっ子C
ちょっとあんたで面白いことしようと思って
三人共手に箒を持ってにじり寄ってくる。
持ち方は明らかに掃除をするような感じではなく、
振り回せるように、両手で端を掴んでいた。
いじめっ子A
なーんか、私達が言っても分かんないみたいだからさ……
いじめっ子B
もっと分かりやすい方法で教えてあげようと思って
いじめっ子C
王子様に近づいたらどうなるかって……
詩島歩乃華
や、やめようよ……そういうの……
いじめっ子A
おめーが悪いんだろうがよ!
詩島歩乃華
ひっ!?
一人が箒を放り投げてきた。
当たらなかったけど、今までで一番恐ろしいと思った。
身の危険、そう思うと足が全然動かなくなった。
いじめっ子A
ほんっとうざいんだけど。
急に髪型変えてさ、色目でもつかってんの?
詩島歩乃華
い、痛い……!
いじめっ子B
切るくらいなら引っこ抜いてあげようか?
髪の毛を掴まれてグイグイ引っ張られる。
痛い。
怖い。
辛い。
詩島歩乃華
助けて……!
いじめっ子C
あんたみたいなの助けるやつ、いるわけ無いでしょう?
アルシェード・エルマ・アマリア
そんな事ない
私も、いじめっ子たちも、入り口の方を見る。
そこにはアル君がいた。
校庭で見た、体操着のままだった。
いじめっ子A
うっそ、王子様……!?
いじめっ子B
なんで、ここに……
アルシェード・エルマ・アマリア
ここに用がある
先生に頼まれた物があるだけだ
いじめっ子C
ちょ、ちょっと待ってよ王子様……
アルシェード・エルマ・アマリア
先生に言われたくないって?
なら詩島さんに、二度とそんなマネするな
いじめっ子C
……行こ
三人は私を一瞬睨んで、渋々出ていった。
呆然と立ち尽くす私に、アル君は駆け寄って来る。
そして私を抱きしめてくれた。
アルシェード・エルマ・アマリア
怖くなかったですか?
詩島歩乃華
アル君……!?
アルシェード・エルマ・アマリア
怖いことがあったとき、母がこうしてくれたので……
落ち着きますか?
詩島歩乃華
はい……
アルシェード・エルマ・アマリア
あれが、ずっと耐えてたことですか?
詩島歩乃華
そうです、周りには心配かけたくないし、
先生に言ってひどくなっても嫌だったから……
アルシェード・エルマ・アマリア
もう大丈夫です。今度からは、僕がついてます
詩島歩乃華
だめです、そしたら今度はアル君がいじめられて……
アルシェード・エルマ・アマリア
心配しなくても平気ですよ。僕はあんなのへっちゃらです!
彼は私の目を見て笑った。
アルシェード・エルマ・アマリア
それより、詩島さんの辛い方が嫌です
僕のことをちゃんと見てくれた詩島さんを、
今度は僕がしっかり守ります
詩島歩乃華
あり、がとう……
アルシェード・エルマ・アマリア
だから、あの人達じゃなくて、僕の近くにいてほしい
詩島歩乃華
近くって……
アルシェード・エルマ・アマリア
僕は卒業したら国に帰らないといけません。
一緒に来て、置いていった筆でまた書道を教えてくれませんか?
言葉の意味を考えて、顔が熱くなるのを感じる。
こんな素敵な人から言われるのは嬉しいけど、
自分でいいのかとか、
先のことって何があるのかとか、
色んな物がぐるぐる駆け巡って言葉が出てこない。
アルシェード・エルマ・アマリア
だめ、でしょうか……?
詩島歩乃華
卒業したら、とか、そんなの全然分かんないです……
けど……!
一つだけ、どうしても言いたい言葉。
詩島歩乃華
こっちにいる間は、一緒にいてくれたら……!
そしたら、嬉しい、です……!
大したことじゃないけど、
今はそれで十分だった。
アルシェード・エルマ・アマリア
……はい、任せてください
詩島歩乃華
ああ……!
よろしくお願いします!
こうして私の世界に春がやってきた。
あれからいじめられることも無くなったし、
学校で笑うことも多くなった。
でも、一番変わったことは、
一緒にいてくれる、書道の好きな王子様ができたことだ。

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