第12話

【6】
648
2022/01/22 16:52
Nside




「っっっ…った…ひゅっ、、はぁっ」

数え切れないほど経験したこの痛み。

数年ぶりでも忘れる訳がなくて。

「っけほっっ、、った…はぅ、、、はっ」

心臓が握り潰されてるみたいに痛む。

息をする度ひゅーっと気道が軋む音がする。

耐えられなくてシーツの上を彷徨う左手。

ナースコールを見つける。


でも押せなかった。

『身体の方が優先。』

『身体を休めることが1番だよ。』


『簡単に言わないで』

『悪いけど帰ってくれないかな。』

俺を心配してかけてくれた言葉。それを無視してこんな事になってる俺。

助けを呼ぶ権利なんてない。

これは、俺にあんな事を言われた2人の心の痛みを知らなかった罰だ。

















児島side



「児島先生、二宮さん急変です。」

午前4時30分、ナースコールではなくモニターが知らせた二宮くんの急変。

ナースコールを押せないほどなのか?と急いで二宮くんの元へ駆けつける。


チアノーゼが出ていて顔面蒼白状態。

クシャクシャになった胸元。

激しく痙攣している華奢な身体。

発作を起こすことは想定内だったがここまで大きいのは想定外。


なかなか治まらない発作。時間をかけて処置をした。

それでもなお不安定な彼。

ICUに移して様子を見る。

管だらけの身体。

何十回見ても慣れない。

あの時もう少し優しく振る舞っていたらと後悔。













Mside




久々にご飯を一緒に食べようって思ってLINEしたら忙しいと。


ストレスを発散できないまま朝を迎えた。


「二宮くんかぁ。久々だね。」

聞き覚えのある名前に耳が反応する。

作業の手を止めて盗み聞きする。

「結構大っきい発作で。」

「それは大変でしたね。」

「後でICUに届けてほしい。」

「分かりました。」

まさかとは思うけど…




「佐々木先生、カンファレンス参加できる?私、ちょっと急用できちゃって…」

「おっけーおっけー」


「潤先生、これ、ICUに届けてくれる?藤木先生に見せればすぐ分かってくれるから。」

「分かりました。」

佐々木先生から点滴やら座薬やらを渡される。

「あ、ついでに処方箋貰ってきて。後で私と確認しよっ。」



“二宮和也”点滴に記されたこの名前。

心疾患患者によく使われる薬。『結構大きい発作で。』『ICU』……身震いがする。

でも、待て。

俺の知ってる二宮は昨日俺と連絡を取っていたし。










児島side




「二宮くん…」

薬を持ってきた薬剤師の松本先生。

眼球がゆらゆらと揺れる。

「おっと…先生大丈夫ですか?」

足の力が抜けて跪く彼。

「きのっ、、ゆうがた、らいん、したんです。ざんぎょう、、だからあえないって、」


一旦ICUの外に連れていく。

これで3回目。


と言うのは、、、



朝出勤してきた大野先生に言ったら珍しく動揺して膝から崩れ落ちて、落ち着かせるために外へ。


大野先生から連絡を受けた岡田先生は泣きながら登場。当然家族でも関係者でもないから中には入れなくて、ガラス越しで泣き崩れていた。

声を出して泣くもんだから周りの人がびっくり。

人通りの少ない廊下に連れてきて慰めた。






二宮くん、君は愛されてるね。















Nside



「けほけほっっォエッ…けほっっっぉえっ」

ズルズルッッズルッ

「げほっげほげほっっおえっげほっ」


「…しよし、よしよし」


視界も意識も音もクリアになる。


さっきの苦しいアレは抜管に吸引だろう。


「ニノおはよ」

「ぉーのさ…けほっ」

挿管してたからだ。喋ると喉が痛い。

「ごめん、昨日は。」

すごく悲しそうな顔で謝るおーのさん。

あなたは何も悪くないのに。

俺を思ってあー言ってくれたのに。

悪いのは俺なのに。

ごめんおーのさん。

そう言いたいけどだるくてだるくて目を閉じた。

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