今日もうるさいくらいの声をあげて、目覚まし時計が朝の7時を伝える。
やっとのことで起き上がって、目覚ましを止めにいく。
今日で、地球から色がなくなって1週間。
この白い世界に慣れた者は恐らくいないだろう。
東雲涼太も、その1人。
全てのものが白いため、影を見て形を判別する他無い。
影はきちんと黒く見えることから、人類の目がおかしくなったわけではなさそうだった。
とはいえ、過ごしずらさはもちろんあった。
いくら住み慣れていても、家具にぶつかることもしばしばで、おかげで小さな生傷が絶えない。
世間では超常現象だなんだと騒がれているが、涼太にとっては、原因よりもそっちの方が重大だった。
顔を洗い、服を着替えて朝ご飯を済ませたところで、タイミング良く、外から聞き慣れた声がとんでくる。
窓を開けて応じる。
翔琉と、その隣には司もいた。
真っ白な世界では、信号機は意味を為していなかった。
大きな道路では警察が交通整備をしているのだが、小さな道路1本1本に警察官を配備できるほど、人手は足りていないらしい。
1人で突っ走る翔琉を止めようと必死に後を追い、挙げ句車に轢かれそうになるとは。
言い返す司の気持ちがよく分かる。
大胆で豪快すぎる翔琉と、反対に慎重派の司。
いつもの言い争いが始まろうとしていた。
訊いた瞬間、しまった、と思った。
が、もう遅い。
にやりとする翔琉のこの顔には、見覚えがあった。
嫌な予感しかしない。
司も同じことを思ったらしく、隣でげんなりとしていた。
こうなったらもう、誰にも翔琉は止められない。例え俺達が断っても、1人でも行くと言うだろう。
翔琉1人でなんか、危険すぎて行かせられない。こいつには常に、制止役が必要だった。
「「はぁ…」」
この先を考えて、司とため息でハモる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。