人集りの中から男性が駆け寄って来た。
「君、無理したは駄目だよ、横になって。」
そう言うと男性は私を仰向けに寝かせた。
「今、救急車呼んだからもう少しの辛抱だよ。」
男性は優しく語り掛けてくれた。
もう声を出すのもしんどい。
「無理して話さなくても大丈夫ですよ、少し傷口見ますね。」
男性は私のシャツを少し捲り傷口を見ると一瞬表情を曇らせた。
すぐ様笑顔に変わり「大丈夫ですよ直ぐに救急車来ますからね。」
と、声を張って話しかけて来た。
この男性は医者なのだろうか?
脈を取りながら傷口をタオルの様な物で押さえ付けている。
男性から視線を逸らし空を見ると空は高く真っ青で陽の光が私をスポットライトの様に照らしている。
陽の光ってこんなに眩しくて暖かかったっけ?
当たり前のように毎日登る太陽。
当たり前のように続く毎日。
私も当たり前のように明日が来るものだど思ってた。
気付くと涙が溢れてた。
みんなゴメンね。
私、約束守れそうも無いよ。
今日、職場で明日から頑張ろうね。
と、笑顔で言ってくれたみんなの顔を思い出していた。
みんなゴメンね・・・、ゴメンね。
パパ、ママ、ゴメンね。
こんな私だけど何時も見守ってくれてありがとう。
私、もうダメみたい、何時も心配掛けてゴメンね・・・、ゴメンね。
私と出会った沢山の人の笑顔が浮かんでは消えて行く。
私と出会ったみんなにありがとう。
そして、ゴメンね。
私は目を開けているのも辛くなり瞼を閉じた。
瞼を閉じても感じる陽の光が次第に弱くなっていく。
私の隣で声を掛けてくれている男性の声も街の雑音も遠くで聴こえるサイレンも少しづつ遠くなって行く。
まるで深い闇に落ちて行くように少しづつ・・・。
瞼を閉じていても感じていた光も消え失せ音も無くなり漆黒の闇になった。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じ無い。
漆黒の闇。
私、死んだのかな?
漆黒の世界に微かに私を呼ぶ声が聞こえて来た。
「おーい、こっちだよ、こっちだってば。」
何処かで聞いた事のある声。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!