兄さんの墓に着いた。
何故か墓はすでに掃除されていて、花まで手向けてあった。
その後すぐに何やら置かれている小瓶と紙に目がいった。
紙には、「痣が発現した場合の寿命の縮みを抑える薬です。使うかどうかは自由。どうか、幸せにね。」と書かれていた。
掃除や花、この薬を置いていってくれた人が誰かなんて、考えずともわかった。
とはいえ彼女はもう人の子を宿しているらしい。今更僕のものにはなり得ない。
愛華じゃなくてあなただって知った時、素直に喜べたら...。
戦いの前に想いを伝えていたら...。
目が覚めて蝶屋敷から逃げ出さなかったら...。
そうしたらあなたは...って、今更考えたって意味がない。
彼女がせっかく掴んだ幸せを壊すつもりはさらさらない。
もちろんここには僕しかいない。幻聴だ。
でもきっとただの幻聴じゃない。見ててくれてるんだよね?ありがとう兄さん、愛華。
僕はもう逃げない。たとえ振り向いてくれなくたっていい。ただもう一度、話がしたい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。