第38話

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2018/08/23 11:29
しかし、その日は現実にやって来た
このあたりでデートといえば、円山動物園が鉄板らしい
家族連れやカップルでにぎわう園内を、私は初対面の男の子と並んで歩いてる
神山智洋
自己紹介、ちゃんとした方がいいよね?
改まった様子で、彼が言った
あなた

あ、うん

私の方もぎこちない
当然だ
何しろこういうことは初めてだ
神山智洋
神山智洋です。神ちゃんって呼んでください
私はふふっと笑う
神山智洋
東高三年です。青木雪音とは、中学の部活が一緒でした
神山は背が高い
親しみやすい笑顔とカジュアルな装いのせいか、思ったよりは緊張しない
それでも私はよそ行きの笑顔を張り付かせて、ニコニコしながら彼……神山智洋の話を聞いた
とにかく、こういうシチュエーションに慣れていない
シロクマがいるところまで来た時、神山が言った
神山智洋
ねえ知ってる?シロクマって、北極グマって言うんだって
あなた

ええ?そうなの?へえー……

神山智洋
あとはねえ、地肌は黒いんだよ
あなた

え!?

神山智洋
そう。で、毛は透明なの
あなた

透明なの!?

神山智洋
だから遠くから見ると、白く見えるの。それから、生まれてすぐは、六百グラムしかない
私は、目を丸くしっぱなしだ
あなた

ちっちゃいんだね

神山智洋
そうなんだよ。人間の赤ちゃんより、ずっとちっちゃい
へえー、と私は素直に感心する
どうやら、動物まめ知識が豊富な人であるらしい
わたしは知らなかった
このお見合いデートを、離れた場所でこっそりと観察している二人組に……

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