第23話

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2018/08/08 01:13
突拍子もない母の、突拍子もない提案で、中野家の夕食はジンギスカンになった
ジュージューと羊肉が焼ける音がリビングに響く
私は、なんだかニヤニヤしてしまう
隣に座る流星も同じように笑ってる
内緒のデートを真智に邪魔された泰弘は、がんばった
がんばって由香里と流星を自宅での焼肉に誘った
私と流星の向かいには、泰弘と由香里が仲良く座り、焼けたばかりの肉を由香里に取り分けたりしている
四人
いっただきまぁす
四人で声を揃えて言い、和気あいあいの食事になった
焼きたての羊肉を食べると、驚くほど美味しい
あなた

おいしい!

私が言うと、気もそぞろの泰弘がうん、うん、と頷く
泰弘
おいしい?美味しいねえ。あー、よかったよかった
不思議なメンバーだが、泰弘は相当に嬉しいらしい
由香里に、
流星の母(由香里)
あ、ビール
と気遣ってもらって、さらにうわずった声を出す
泰弘
あぁ、すみません。ありがとうございます
それを見て、私と流星はまたニヤニヤしてしまうのだ
泰弘は、ビールをぐいっと飲んで、由香里に言った
泰弘
なんか今日は、ホントにすみませんでした。あの人いつもあんな感じで、でも悪いやつじゃないんですよ。根は良いヤツで……いやぁ、なんで俺かばってるんだろ
本当だよ、と私は内心でツッコミを入れる
しかし由香里は優しい声で言うのだ
流星の母(由香里)
ええ分かります。愛情の見せ方なんて、人それぞれですし
泰弘はじーんとした顔をして、由香里の言葉に深く染み入った様子だ
私もなんだか嬉しかった
ふと、由香里が私を見て言う
流星の母(由香里)
あなたちゃんは、お母さんと似てるのね
あなた

え!そうですか?

流星の母(由香里)
うん、可愛らしい雰囲気とか
泰弘は由香里を束の間、愛しそうに見つめていたが、突然背筋をしゃんと伸ばし、
泰弘
あの!
と意を決したように切り出した
泰弘
これからもこうやって一緒にいられると嬉しいです!僕と……僕と、結婚してもらえないでしょうか!
こ、子供同伴プロポーズ……!
並んで座る私と流星は、揃ってあぜんとする
さらに、
流星の母(由香里)
……はい
由香里がそう返事したので、私はますますあぜんとした
私はそっと流星を見る
この人と近づきたいと思っていた……けれど、まさかの家族として!?
いい雰囲気を壊さないように、私と流星は二人で目配せし合って、そっとリビングを出た
流星が、気遣うような眼差しで私を見ているので、ははっと笑ってみせる
あなた

あたし、慣れてんの。お母さんが四回も結婚してるから

すると流星は、そっと私の手を握って言った
藤井流星
もし……そうなったら
あなた

ん?

流星は、ふっと優しく微笑む
藤井流星
スミレも一緒でいいのかなぁ
私も笑い、ぐっと流星の手を握り返す
あなた

当たり前じゃーん!

そこへ父の泰弘がタイミングよくやってきて、照れた顔のまま、言った
泰弘
じゃあ、まず、スミレ用のベッドなぞを買いますか!
うん、それはナイスだ、お父さん!

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