第29話

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2018/08/15 06:30
小瀧遙
望が、女の子、怪我させたって聞いたんですが!
息急き切って保健室に入ってきたのは、望の姉の遙だ
私はちょうど、鼻にガーゼを入れて、流星に介抱されている時だった
遙は、ひどく申し訳なさそうに私に謝った
小瀧遙
中野さん大丈夫?………望がごめんなさい
私は恐縮して首を振る
あなた

あ、いえいえ、そんな大したことないんで大丈夫です

小瀧遙
……本当?良かった
遙は安堵の息を吐いた
流星は、ずっと遙を見つめている
遙はそんな流星に気づいて、今度は彼に向き直った
小瀧遙
流星、望と喧嘩した?
流星は小さく頷く
やっぱり
私はそっと流星を見た
おかしいと思った
ふたりが口を聞かないなんて
遙が辛そうな顔で、呟くように言う
小瀧遙
あの子、最近変だったから
藤井流星
望に……今まで、ありがとうって言ったんだ
遙は、優しく流星を見つめている
奇妙な疎外感
私は、今さらのように気づく
流星と遙、ふたりの間に流れる、独特の空気に
遙はさらに、優しい穏やかな声で、流星に言う
小瀧遙
望はね、流星のこと、守ることで、自分を支えているのよ
流星は、一瞬だけ、とても弱ったような顔になった
小瀧遙
人を守るつもりで、自分を一生懸命支えているのよ
流星は、震える声で聞く
藤井流星
じゃあ、僕が否定したら、望は支えを失うの?
小瀧遙
そうねぇ。そうでしょうねぇ
流星の頬に涙が伝う
静かに、声も立てず、流星は泣いている
私はどうしていいか分からず、流星を見つめるばかりだった

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